麻美ゆまと山田ルイ53世(右)
麻美ゆまと山田ルイ53世(右)

「ルネッサーンス」でおなじみのお笑いコンビ『髭男爵』の山田ルイ53世さんとの対談・後編です。中学2年から“引きこもり”で、やることもないから、お笑いの世界に入ったという山田さん。常に勝ち組でいなければならない現代に対して、負けは負けで上等、後悔するのが当たり前――そんな山田さんの考えを聞いて、私は感銘を受けると同時に、気持ちがラクになりました。とはいえ、真面目な話ばかりでは……ということで、私がぶつけた質問は――。

ゆま「ものすごくハマったお菓子はないんですか?」

山田「なんで、お菓子やねん(笑)」

ゆま「いや、山田さんは没頭できるものがないとおっしゃっていたので。でも、きっとハマったものが何かあるんじゃないかなと」

山田「そういうことですか。ブルボンの『エリーゼ』なんかは好きですけどね」

ゆま「おいしいですよね~」

山田「なんですの、このやりとり(笑)。ゆまさんは、どうなんですか? 没頭することはありますか?」

ゆま「私はすぐに没頭しちゃうんですけど、飽きるのも早いんですよ。たとえば、車もそうでした。あるとき、どうしても乗りたい車を見つけて、そのために免許を取りにいったんです」

山田「情熱的だね~」

ゆま「はい。当時は現役で、すごく忙しい時期だったんですけど、頑張って教習所にも通ったんです。で、なんとか免許を取得して、欲しかった車も購入したんですけど……一度も乗らなかったです」

山田「えええ!? 車は買ったのに、乗らないの?」

ゆま「はい。ずっと駐車場に置いたまま。あ、一度だけ運転しました。駐車場から3メートルほど車を出したんですけど、やっぱり運転するのが怖くて、元に戻しました(笑)」

山田「ガハハ。それでも僕は羨ましいですよ、ゆまさんが。僕には、そういう“情熱のガソリン”みたいなものがないんですよね」

■『一発屋芸人列伝』が『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』の作品賞に

ゆま「とはいえ、本を出されているじゃないですか。私は昨年出版された山田さんの『一発屋芸人列伝』(新潮社)を読んで、ものすごく感動したんです。何がスゴいって、山田さんが直接、11人の一発屋芸人さんたちにインタビューされて、テレビでは語られないセキララな本音を聞き出されていたことです。一発屋芸人さんを見る目が、あの本で変わりました」

山田「ありがとうございます。まあ、僕自身が一発屋芸人なので、一発屋同士だからこそ聞き出せることもあると思ったんです。だからといって“傷の舐めあい”はしたくないし、旬の過ぎた一発屋芸人のお決まりの自虐ネタなんかも聞きたくなかった」

ゆま「硬派なルポって感じでした。その中にもクスッと笑える部分もあって。実際、この本は『第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』の作品賞にも選ばれているんですね」

山田「いやあ、そんなに褒めてもらえると……やっぱりうれしいですね(笑)。褒めてもらいたくて、書いたようなものです」

ゆま「アハハ。本を書かれるってことは、山田さんの中にも情熱があるってことですよね」

山田「どうだろう……情熱というか、“私怨”かな。一発屋って、旬が過ぎてたまにテレビに呼ばれても、当時の“最高月収”を聞かれてばかり。一発屋の芸に対しては興味を持たれないんですよね」

ゆま「確かに……この本を読んで思ったのは、一発屋芸人さんのそれぞれの芸には、完成までの歴史があって、ものすごい努力もされているんだなぁって」

山田「一発屋の僕が“この一発芸はココがスゴイ!”と声高に訴えるのも正直、格好悪いことは分かっています。でも、もう少し一発屋の芸は評価されていいんじゃないかとも思っているんです。そういう私怨で、本を書いたんです」

ゆま「やっぱり、本当は、すごく心の中に熱いものがあるように思えてならないんですが(笑)」

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