ストリップ小屋では、決して踊り子に手を触れてはならない。

 たとえ脱ぎたてほやほやのおパンツを頭に被せられても、地蔵になるのだ、手はお膝の上で。しかし、まれに「タッチショー」が行われることがある。そのときばかりは、踊り子さんから渡されたウェットティッシュで手を清めたのち、おっぱいを直に触ることができるのだ。

 どういうことだろう、あの幸福感は。

 俺は、男の子なのかも、しれないよ! だってこんなにも、うれしいんだもの! 両手の平をいっぱいにするおっぱいは、ふわふわと頼りなげに揺れ、どこまでも柔らかい。これらは特別なものだ。幸せお肉、ふたつかみだ。

 個人的には、ややハリを失ったおっぱいこそ、触り心地抜群の最高級品であると思っている。ほどよい厚さに削ぎ、出汁を張った鍋にさっとくぐらせてみたいものだ。

 人間は、ライオンのように肉を食べない。ナイフとフォークを使って、手を汚さずに口に運ぶ。焼き鳥は串を持つし、ドネルケバブはピタパンに挟む。

 骨つき肉は直接触ることもあるが、しかし人前で手羽先やスペアリブを食べるとき、ギャートルズのように掴む現代人は少ない。できるだけ骨部分を指先でつまむようにするのがマナーだ。スープカレーに浮いた手羽元など、よく煮込まれて骨離れが良いから、スプーンで掬っただけでずるむけになることもある。なんて君はつまらないんだ。がっかりだよ。

 もっと肉そのものを、遠慮なく触りたい。そう、あのタッチショーで両手におっぱいを包み込み、ほんの少し力をこめて、その弾力を確かめたように。

 そこで、料理だ。生肉を素手で触って、塩やスパイスを恍惚と揉み込めばいい。おかげで冷蔵庫の中には、常に豚塊の塩漬けが転がっている。そして、自家製サラダチキンがタッパーの中で冷えている。コンビニで買うより、塩と砂糖を塗りつけてチンしたほうが、安くて美味しくて、おまけに気持ちがいいのだ。

 仕事が長引いて、おっぱいを触ることはもちろん、眺めにも行けなかった日。せめて本能が喜ぶめしで腹と心を満たしたい。

 駆け込んだ閉店間際のスーパーには、塊肉も骨付き肉も残っていなかった。薄切り肉や加工肉などに用はない。しかし、私はあきらめなかった。精肉売場がだめなら、鮮魚売場だ。

 ボウルに塩と加熱用牡蠣1パック。

 牡蠣の肉はデリケートだ。殻から外され、確実に死んでいるのだが、それでも壊れ物のように、痛がらないように、やさしく素手で洗ってやりたくなる。そして、ショウガとともに加熱したのち、塩で味を調えればもう、「本能めし」の完成だ。

 これは敬愛するスープ作家、有賀薫さんのレシピの中でも、大のお気に入りである。

 触れてうっとり、お口に含めばもう昇天、牡蠣のうしお汁。

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