広末涼子主演『20世紀ノスタルジア』を松江哲明監督が語る!の画像
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ドキュメンタリー映画監督 松江哲明
アイドル映画評「アイドル映画って何だ?」vol.3

 ドキュメンタリー映画監督の松江哲明氏が、アイドル映画を評論し……、というか、アイドル映画ってそもそもどういった作品のことを指すのか? という再定義を目指す連載。第3回は、平成を代表する美少女のデビュー作にして、怪作と傑作の評が同居する『20世紀ノスタルジア』です。

「ヒロスエが母校でHi-8の編集機材を使いこなし、BOX東中野(現ポレポレ東中野)で上映されていた『勝手にしやがれ』をデートで観に行ったら、すでに上映は始まってて「ウチにビデオあるよ」なんて言って誘ってくれるなんて!」

『20世紀ノスタルジア』のそんな展開に衝撃を受けたのは、禁煙と書かれた教室にタバコの煙が充満し、女生徒が少なく、講師からは「ここで落ちこぼれたらホームレスだ」と言われていた日本映画学校に通っていたからこそだ。

 絶対にあり得ないことが、自分のよく知る風景で起きている。まさに「夢の映画」だった。

 クレアラシルとドコモのポケベルのCMで日本中の男子(私を含む)のハートを射抜いて以来、映画デビューを待望されていた。そしてどうやら、撮影が進んでいたものの、中断されている作品があるらしい、というニュースは「早く観たい!」という具体的な期待へと変わる。

 宇宙人を名乗る少年と地球のレポートを兼ねた映画作り(デート)をするものの、未来を悲観する少年はオーストラリアへ逃避し、彼の残したビデオの続きをヒロスエが撮影するという、デジタルビデオとフィルムが混在するミュージカルという本作。私の同級生は「変な映画」と断言したが、私はその度に「ヒロスエは可愛い」と支持していた。

 本作の世間的な評価もその一点だったかもしれないが、公開から20年以上経って見直すと、時代と共鳴する作品へと変貌していることに気づかされる。現在では町中で自撮り棒を持つ少女は珍しいものではなく、カメラに向かって話しかけ、自分の生活を世界中に配信するYouTuberは憧れの職業となった。映画学校に通う私にタイムスリップして伝えたところで絶対に信じないだろうが、ヒロスエがお気に入りの帽子をかぶってカメラに語りかけていた1997年のビデオ映像は現実となったのだ。

 斬新なものほど拒絶反応は大きかったりもするが、中にはまだ誰も見ぬ可能性が秘められている場合もある。本作がその実証だ。

20世紀ノスタルジア(プレビュー)

あらすじ(「キネマ旬報社」データベースより)

『WASABI』で流暢なフランス語を披露した広末涼子のスクリーンデビュー作。瑞々しい広末の笑顔が、何とも爽やかな青春ドラマ。高校2年生の杏は、ビデオカメラを持った自称“宇宙人”の徹と出会う。見事なカメラワークを見せる徹に杏は惹かれていった。

監督/原将人 
脚本/原将人、中島吾郎
出演者/広末涼子、圓島努、余貴美子、他
 

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