高良健吾
高良健吾

 20代前半までは、いつか役者という仕事を辞めよう。そう思っていたんです。僕は常々、与えられた役に対しては、すべて理解したうえで演じなきゃいけないものだ、と思っていたんです。

 なぜなら、他人を演じるということは、その人自身にならなくてはいけないわけで、そうなると、自分が正しいと思っていることやルールをその役に合わせて曲げなくてはならない。場合によっては、信じていたことを一回、捨てなきゃいけないときもある。

 それに対して「なんでここまでしなきゃいけないんだ」という思いがあって。まあ、ひと言でいえば、他人になる、なりきるということが僕の中でグッとこなかっただけなのかもしれません。 

 でも、あるとき、役に対して「すべてを理解しなくてもいいんじゃないか」と思えたんです。自分のことだって、そんなに分かってないのに、ましてや他人のことを、しかも役のことを理解しきれないのは当然のことじゃないかって思えたんです。自分の中でグレーゾーンが広がったというか……完璧を求め過ぎない、自分を許す部分が増えたということでしょうか。もちろん、それは“逃げ”でもなかったし“諦め”でもないんですけどね。

 20代の後半になってからは、それまでのように勢いだけでやり過ぎることをやめました。30歳になってからは、自分の命をどうやって使っていくかということを考えるようになったんです。

 そのきっかけになったのが、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』で高杉晋作を演じさせてもらったことでした。高杉がいた松下村塾の出身者って、10代後半や20代前半で“生と死”について考えながら生きていたんですね。それを知ったとき、自分だったら、どういうふうに命を使っていくんだろうなって、真剣に考えるようになったんです。

 それで辿り着いたのが、自分が演じたものが、この後もずっと、残っていくものであるならば、恥ずかしくないものを残したいな、っていう思いだったんです。それまでは役のせいでネガティブな部分もあったんですが、ポジティブに転換できるようになれたんです。

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