■忍者を生んだ日本は世界最弱の情報貧国

 伊賀・甲賀の忍者が全国に忍びの技術を広め、土地土地の間諜の伝統と化学反応を起こし、各地で個性豊かな忍者集団が乱立したのも戦国時代の特徴だ。

 有力大名は独自に強力な忍者衆を組織し、武田の「透破(すっぱ)」、織田の「饗談(きょうだん)」、上杉の「軒猿(のきざる)」、伊達の「黒脛巾組(くろはばきぐみ)」、毛利の「世鬼(せき)一族」、北条の「風魔(ふうま)」などが誕生した。

 なかでも“甲斐の虎”武田信玄は、忍者を重視していたとされる。「人は城、人は石垣…」で知られる信玄は、強固なインフラよりも、情報や人間感情の機微を重んじた武将であるため、忍者を重視したのは当然だろう。

 信玄は透破と呼ばれた忍者集団に加え、「歩き巫女」に扮した「くの一(女忍者)」を全国に派遣し、情報収集を命じたとされる。また、「金山衆」と呼ばれる鉱山技師たちも、情報収集や城攻めの特殊工作に用いたと伝わっている。

 江戸時代になると忍者の需要は激減するが、柳生や伊賀・甲賀が“公儀忍び”として生き残り、明治初期まで活動した。

 すでに絶えたかに見える忍者の伝統だが、その名を「NINJA」に変え、いまだ息づいている。いまなお暗躍を続けるスパイは忍者の末裔であり、ゲリラ戦闘を得意とする特殊部隊は“現代の戦忍び”だからだ。

 世界に冠たる諜報集団、忍者を生んだ日本。しかし、その日本は現在、先進国の中で唯一対外情報機関を持っていない“情報貧国”に成り下がってしまっている。

「太平洋戦争期には、陸軍中野学校と呼ばれるスパイ養成機関が設置され、連合国相手に熾烈な諜報戦を戦い抜いた日本ですが、戦後は、GHQの方針で対外情報機関の設置は認められませんでした。現在、大規模な戦争のリスクは減じていますが、逆に局地的なテロの脅威は高まっています。さらに、国家間の取り決めを優位に進めるためには、相手方の情報を集めて分析しておくことが不可欠です。産業スパイへの備えも必要でしょう」(防衛省関係者)

 孫子の兵法では「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」と説く。いつの時代も情報強者が、勝利を手にすることは自明である。忍者を生んだ日本は、いまこそ、“21世紀型の忍者集団”を考えるべきかもしれない。

※『EX大衆』2018年9月号より

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