私は燃費が悪い。人の倍以上食べないと、腹が減って動けなくなってしまう。もたれることは滅多にないので、消化はできるが、吸収が悪い胃腸なのだと分析している。

 だからあのコンニャクも、うまく吸収されなかったのだ。そもそもコンニャクは芋からできているくせに、ほとんどカロリーがないという。そんなわけはなかろう。つまりコンニャクも、吸収されるのが得意ではないのだ。

 念のために説明しておくが、ここで言うコンニャクとは、サービスエリアで売っている串に刺さった玉こんにゃくではなく、「ほんやくコンニャク」のことである。食べるとどんな国の言葉でも理解でき、口から出る言葉は自動的に翻訳されて伝わるという、有名なドラえもんの便利道具だ。韻を踏むためにコンニャクで製品化したのだろうが、吸収が悪い人のことも考えてほしい。

 おかげで私の語学力は、何を言っているのかは解るが私の言葉は全く変換されない、という中途半端な状態にある。

 店頭で外国人から問い合わせがあれば、何の本を探しているかは分かる。だが、それがあるかもしれないけれどないかもしれないことや、似た本があるから見てみるか? といったことを日本語で話しても全く伝わらず、「フォローミー!」とジャンヌダルクになって、棚前まで引っ張っていくしかない。

 先日台湾を訪れた際、夜市の外れの街路樹の裏に、ひっそりと賑わう屋台を見つけ、フラフラと近付いた。

 日本のガイドブックに掲載されるような人気店は、基本的に日本語が通じる。だがその屋台のまわりには、明らかに地元の人しかおらず、日本語で「メッチャオイシイヨ」などと話しかける商売っ気もないようだった。種類豊富な茶色い肉総菜が、台の上で特に仕切られることもなくドビャッとぶちまけられていて、客が指差せばおじさんがそれをトングでつかみ、トトトンとひとくち大にカットしてポリ袋に放り込むシステムらしい。その茶色い海の中で、私は最終的に3つのゾーンを指差した。片っ端から尋ねても、料理名はわからない。だが私の脳は、コンニャク効果で「これ新井が好きなやつネ」「これも新井きっと大好きネ」という風に聞き分けることができ、そしてそれは、ことごとく当たりなのだった。

 こうして私は、世界中どこへ行っても、本能で美味いものを見つけられる。

 という話かと思いきや、違うのである。

 友人とケーキ屋へ行くと、日本語の商品説明をじっくり読み、時には店員に質問をして、2、3個ずつ真剣に選ぶ。そしてお互いのケーキをひとくちずつ交換するのだが、毎度友人が選んだケーキのほうが美味しいと感じるのだ。

 ひとくちしか食べられないから、美味しく感じるのだろうか。

 しかし友人は、そっちのケーキのが美味しい、とは言わないので、ひとくちだから美味しい説は成立しない。同時に、私が本能でうまいものを見つけられる説も成立しない。

 それなら、最初からその友人が選んだケーキを頼めば良いからだ。

 このことから、あの雑肉屋台の総菜は、きっとどれを選んでも超美味しかったのだ、という結論に行き着く。豚の皮や鶏の足は柔らかく煮込まれ、ぷるぷるコリコリとした食感は、思い出すだけで涙が出そうである。

 ただ、必要以上に激辛であった。別の涙が止まらないほどに。

 ポリ袋に詰める際、「辛いタレはかけるか?」と聞かれたのは理解できた。

 だが、日本語で答えた「ほんの少しだけ!」は、全く翻訳されなかったのである。

 コンニャクめ!

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