朗読詩人 成宮アイコ エッセイ
「愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル」

 朗読詩人の彼女が、大好きなアイドルのことと、なかなか好きになれない自分と生活のことを綴る連載。その第5回は、NGT48の事件についてです。

 こんなに、なにも書けなくなったことは初めてでした。

 前回の連載で書いた、「傷ついた人をまもりたい気持ちは、誰かを傷つけてもいい権利ではない」という言葉が、わたしの気持ちに重くのしかかってきます。直接的な名前は書きませんでしたが、つまりはNGT48の件でした。

 その後も騒動はなにひとつクリアにならず、グループのメンバーを起用したメーカーには批判が殺到、SNSには批判コメントの嵐。それを見ていると、特別推しのグループだったわけではなく、新曲が出たら「今回はどんな曲かな」とチェックをするくらいのわたしですら、盲目になってしまいそうになり、ハッとします。

 自分は絶対に加担しないぞと思っていても、考えれば考えるほど、調べれば調べるほど、悲しみは怒りになり、怒りは憎しみになっていきそうでした。このままだとわたし自身がいちばん嫌いな歪んだ正義…つまり、グループのメンバーを勝手に疑い、憶測で悪意すらもってしまいそうなのです。

 人間はとても弱い。

 最終的に、被害を受けたメンバーが追い出されるような形で脱退することが発表されました。

 彼女が公演中に読んだ最後のコメントが、せめてほんとうに言いたかったことでありますように、何者かに止められたり書きなおされたものではありませんように、と息苦しい気持ちでニュースを見ました。

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