■「この曲、すげーいいじゃん」
その男の子とは、ある洋服屋さんで出会いました。
そこは個人店で、アニメやゲームなどカルチャー系のTシャツと、クラブミュージックの音源を置いている小さなお店でした。
オープンの11時、制服のまま行っても誰もなにも言いません。
制服を着ているひとは、明らかに学校にいる時間ですが、そのことについてなにか言われたことは一度もありませんでした。
いつものようにお店に行くと、知らない制服の男の子がお店のベンチでなにかを読んでいました。
仲良しの店員さんに、「仲間どうしじゃん」と笑われました。
たぶんそれが、学生ということに触れられた唯一だと思います。
共犯めいた気持ちに後ろめたくなり、なんとなくぎこくちない会釈をしたあと、話しをしました。
彼は音楽に詳しいようで、よく知らないアーティストの名前を言って、何度かCDを貸してくれました。
店員さんと、機材かなんなのか難しいカタカナの単語をたくさん出して、難しそうな話しをします。
頭で音楽聴くのかよと思いながらも、「このCDはね……」と嬉しそうに説明をしてくれるので、ああほんとうに音楽が好きなんだろうなと思い、ほとんどなにを言っていたのか覚えていないけれどさえぎらず聞いていました。
ある日、「アイコさんはどんなの聴くの?」と聞かれました。
音楽に詳しそうな人に言うのがいやで、その質問をされないようにそれとなく避けてきたのですが、いよいよ聞かれてしまった。
まぁいいか、と思い、「女の子のアイドルが好き」と言って、自分が聞いていたイヤホンをわたしました。
たしかアニメかエロゲーの曲だったと思います。
バカにされるかなと思ったのですが、こう言われました。
「この曲、すげーいいじゃん」