『カメ止め』上田慎一郎監督インタビュー「笑いが、実は一番いばらの道」の画像
上田慎一郎(撮影・弦巻勝)

 初めての劇場長編映画『カメラを止めるな!』の公開を境に、僕をとりまく世界は、音を立てて変わりました。

 製作費300万円、無名の俳優たちと作った『カメ止め』は、2017年11月に6日間の先行上映があって、その後18年の6月に劇場公開がスタートしました。当初はたった2館。それからどんどん上映館が増え、最終的には350館以上に。200万人以上の方が観てくださったヒット作品になりましたが、「こんなことが日本の映画界でも起きるんだ!」とビックリしましたね。

 それまでは、ハネムーンでハワイに行ったのが唯一の海外旅行だったのに、映画祭に呼んでいただいて、イタリアやフランス、ドイツといった国々にも行けた。テレビや雑誌の取材も数えきれないくらい受けて、憧れていた方々とも会うことができました。でも、次回作のお話をいただいたのは、まだ『カメ止め』がヒットする前。先行上映のときだったんです。観てくださった松竹ブロードキャスティングの深田プロデューサーから、作品の感想をつづった“熱いメール”をいただいたんですね。すぐお会いして、本作のオファーをいただきました。すごくうれしかったのですが、まだ公開前でもありましたし、「落ち着いたらぜひ!」とお返事をしました。そしたら、『カメ止め』のほうがいっこうに落ち着かない(笑)。それどころかエスカレートしていきましたからね。

 そして、やっと落ち着いて、次回作のことを考えられる状態になったとき、今度は『カメ止め』の呪縛にとらわれてしまいました。ストーリーを考えても、“これじゃ『カメ止め』に似ている”と思ってしまう。さらには、“お客さんは『カメ止め』っぽいほうが喜んでくれるのかな”なんて迷いも出て、前に進むことができなかったんです。押し寄せる猛烈なプレッシャーで気絶しそうでした。

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