乃木坂46
※画像は乃木坂46のシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』(通常盤)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第1回 「演じる者」としての乃木坂46 1/4

 乃木坂46というアイドルグループを特徴づけるもののひとつとして、シングルリリース時に制作される「個人PV」がある。現在既に数百の作品があり、今も増え続ける個人PVは、グループにどのような豊饒さをもたらしているのか。MdNムック『乃木坂46 映像の世界』で個人PV全作品解説を担当したライターの香月孝史による、個人PVに焦点を当てた連載がスタート。

■俳優をはぐくむ組織

 この連載ではまず、「演じる者たち」という観点で乃木坂46をとらえるところから始めたい。というのも今日、乃木坂46は俳優を輩出する組織として見逃せない存在になっているためだ。

 最もわかりやすいのは、舞台演劇における成果だろう。『レ・ミゼラブル』のコゼット役などで帝国劇場のミュージカルにしばしば出演する生田絵梨花の活躍は報じられることが多くなったが、2019年だけでも生田以外に井上小百合樋口日奈らのほか、今年グループを卒業した衛藤美彩桜井玲香なども相次いで東宝製作のミュージカルに出演している。

 生田はまた、Bunkamuraシアターコクーンで再演を重ねてきた松尾スズキの代表作『キレイ』に2019年版再演に主人公・ケガレ役でキャスティングされ、乃木坂46と現代演劇とかかわりにおいて新たな地平をひらくパイオニアになっている。

 若月佑美能條愛未らをはじめ卒業メンバーが、それぞれに舞台演劇のキャリアを積み重ねていることも、このグループを経た者たちの進む方向を照らすひとつの道標になるだろうし、あるいはその若月がグループ在籍中に前田司郎作・演出の岸田國士戯曲賞受賞作『生きてるものはいないのか』や種々の2.5次元作品など幅広い舞台出演を経験しながら選抜常連メンバーとして活動していたことは、乃木坂46を通じたキャリアのモデルケースのひとつといえよう。

 また乃木坂46というグループ単位でみるならば、2018年からミュージカル『美少女戦士セーラームーン』を託されていることも意義深い。2019年にはセーラームーン/月野うさぎ役の久保史緒里ら新キャストによって、乃木坂46版としても継承の歴史をあゆむことになった。「セラミュ」の愛称で知られ、1990年代から重層的な軌跡を描きつつ今日に至るこのシリーズを担うことは、見かけよりもずっと高難度でチャレンジングな成果である。

 もちろん、彼女たちがこのようなキャリアをあゆむ機会に恵まれるのは、乃木坂46というグループが2010年代後半の女性アイドルシーンの中心に立ち、巨大な有名性を背負っているからでもある。とはいえ、そうした多人数ガールズグループのなかでも、多くのメンバーが在籍時からこれほどに演技に傾斜しつつキャリアを見据える組織は稀有といっていい。

 その背景には、乃木坂46がそもそも「演じる」ことを強く志向するプロジェクトとしてスタートした経緯がある。

 乃木坂46は結成当初、「AKB48の公式ライバル」という看板以外に具体的なコンセプトや活動方針が明確にされていたわけではなかった。

 それでも、最終オーディションが催された2011年8月の段階ですでに、デビュー後におこなう公演活動として「歌だけではなく物語性のある内容」「公演を前半と後半に分け、休憩時間に観客投票をおこなう」といった構想の断片は語られていた。これらの言葉は「演じる」グループとしての方向性を暗示するものだった。

 その構想が具体的な姿になったのが、デビューの2012年から2014年にかけておこなわれた演劇公演「16人のプリンシパル」である。公演前半となる第一幕がオーディション、それを受けて幕間の観客投票でキャスティングを決めて第二幕で演劇を上演する独特のスタイルは、「民意」によってコンテンツを動かしてゆくAKB48的な想像力が採用されつつも、「演技すること」を主眼に置く企画だった。

 結成時点で草創期にこのイベントがグループの代表的なコンテンツとしてあったことは、乃木坂46のアイデンティティを確認するうえで重要である。乃木坂46はなにより、「演じる者」をはぐくむ組織としてあった。

 そして、「演じる者」としての乃木坂46について考えるとき、「16人のプリンシパル」と同じくグループ草創期からいとなまれてきた、もうひとつの「演じる」回路に着目する必要がある。それが、この連載でみてゆく「個人PV」である。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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