■天覧試合でサヨナラホームラン!

 “記録の王、記憶の長嶋”と言われることがあるが、長嶋が、「プロ野球人として、あれ以上に感激したことはない」と振り返るのが、ご存じ【天覧試合】である。1959年6月25日、巨人-阪神の11回戦は、日本プロ野球にとって初の天皇、皇后を迎えての天覧試合だった。異様な緊張感で始まった伝統の一戦は、8回まで4対4の好ゲーム。そして迎えた9回裏――。「トップバッターは長嶋でした。このとき、9時8分。両陛下は9時15分になったら、お帰りになる予定だったので残り時間はわずか。そこで、長嶋は村山実のインハイのストレートを振り抜き、レフトポールぎりぎりに飛び込むサヨナラホームランを放ったんです」(前出の関係者)

 長嶋はこの日、5回にもホームランを打っていた。「王もホームランを打っており、初の“ONアベック”弾でしたが、サヨナラのインパクトには勝てません。この試合で、“大舞台に強い長嶋”というイメージが定着しました」(前同)

 続いては、王の【756号本塁打達成】。76年にベーブ・ルースの714本を抜いた王。翌年、目指したのはハンク・アーロンの世界記録755号だった。この年の王は、前半戦こそ不調だったが、オールスター戦後の16試合で12ホーマーと復活。ファンは、世界記録更新を期待した。「8月31日に755号でアーロンに並んだあと、9月3日、後楽園でのヤクルト戦でした。3回裏、鈴木康二朗の4球目を右翼スタンド中段に叩き込んだんです」(前出のOB)

 その日は、王の両親が観戦に訪れていたという。両親は試合前に王を訪ね、母親の登美さんが“リンゴと鈴虫”を手渡したとか。「リンゴはチームのみんなで。鈴虫は孫たちからよ」

 王は、こう述懐する。「試合前に一人で鈴虫を眺めていたら、不思議と喧騒を忘れて集中できた。あのリーンリーンという音が、今でも耳に残っているよ」

 世界のホームラン王の名前は、メジャーリーグでも知らぬ者はいない。

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