麻美ゆまとMr.マリック(右)
麻美ゆまとMr.マリック(右)

 前回に続いて、Mr.マリックさんとの対談です。のっけから指1本触れず、スプーンを曲げるどころかポキッと折ってしまう“超魔術”を披露されて、私は瞬く間に異次元に放り込まれた気分です。そんなスゴすぎるマリックさんですが、若い頃は『週刊大衆』を掛布団にして寝ていたほど、苦労された時代もあったんです。今週は、テレビで大ブレイクされるまでのお話を聞きたいと思います。

マリック「ナイトクラブやキャバレーが時代とともに潰れていって、マジシャンは働く場所を失ったんですね。そこで私は当時、増え始めていた高級ホテルのラウンジに目をつけたんです」

ゆま「ラウンジ、いいなぁ。夜はバンドの生演奏があって、ダンスを踊るんですよね」

マリック「そう。そんな雰囲気だから、僕がホテル側に“マジックをさせてください”とお願いしても、“いらない、いらない”と言われるばかりでした」

ゆま「厳しいですね……」

マリック「とにかく一度挑戦させてもらいたくて、“ノーギャラでいいので、生演奏の後にお時間を少しだけください”とお願いしたんです。そしたら、“まあ、ノーギャラなら構わない”と一応許可が出たんです」

ゆま「そこで超魔術を披露して、お客さんを夢中にさせちゃったわけですね!」

マリック「いやいや。生演奏が終わると、お客さんはカップルばかりだから、みんな、夜景を見に行っちゃうんです。僕がステージに上がったときは、誰もこっちを見ていない(笑)」

ゆま「あらら……」

マリック「だから、僕は少しだけマジックをやって、“もっと見たい方は、声をかけてください”と言って、早々にステージを降りたんです」

ゆま「え? 降りちゃったんですか?」

マリック「ええ(笑)、でも、しばらくするとホテルの人がやって来て“あちらのお客さんがマジックを見たいとおっしゃっています”と。若いカップルの方でした。僕は彼らの席に移動して、マジックを披露したんです。普通は拍手をするじゃないですか。でも、彼らはワァーとかキャーとか悲鳴を上げるんです」

ゆま「私も、スプーンが折れたとき、悲鳴が出ましたもん」

マリック「それが良かったんです。騒いでくれると、他のお客さんたちも興味を持ってくれるんですね。次々と“こっちでも見せて”となったんです。それを見て、ホテル側も正式に契約をしてくれたんです」

ゆま「さすが! 一組のカップルを楽しませれば、どんどん広がるんですね」

マリック「その通りです。波紋と同じなんです。これはステージに限らず、いろんな場面で使えるテクニックです。大勢の人前で話すのは緊張しますよね?」

ゆま「私はもういつも緊張しっぱなしで、舞台に立つ前は吐きそうになります」

マリック「それは全員を楽しませなきゃとか、全員に好かれなきゃとか考えてしまうからです。でも、どんな場面でも誰か一人はいるんです。必ず一人は自分を見てくれている“優しい人”がいます。その人をまず見つけて、その人にだけ話しかければいいんです」

ゆま「なるほど。1対1だと思えば、そんなに緊張しないかも」

マリック「はい。一人が笑えば、隣にいる人も笑い始めます。気づくと、その場にいる全員がスプーンを持っていますよ(笑)」

ゆま「そっかぁ。私なんかはつい舞台やステージに立つと、見てくれていない人をなんとか振り向かせようと頑張っちゃうけど、それは逆だったんですね。世界観まで変わっちゃう、めちゃくちゃ役に立つ話です」

マリック「そもそもマジックで大切なのは手先のテクニックが2割、残り8割は場の雰囲気作りなんです」

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