朗読詩人 成宮アイコ エッセイ
「愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル」

 朗読詩人の彼女が、大好きなアイドルのことと、なかなか好きになれない自分と生活のことを綴る連載。その第7回は、とあるアイドルの到達点についてです。

■ひとつの目標の終わり、次のわたしのはじまり

 この秋、わたしのひとつの目標が終わりました。

 まずは、わたし自身のお話しをします。(後半に書くアイドルさんのことにつながるので、おつきあいくださると嬉しいです。)

 今年の夏に、2冊目の本『伝説にならないで』が皓星社さんから出版となりました。

 

 わたしは普段、文章を書くほかに詩の朗読ライブをして各地をまわっているのですが、ずっと、「いつかここで朗読をしたい」と思っている場所がありました。この連載の第6回目にも出てきた新潟のイトーヨーカドーです。

 不登校気味だったころのわたしは、同世代の他人がこわくて、学校の人に絶対に会わないであろう新潟のイトーヨーカドーを逃げ場にしていました。そのなかでも、紳士服売り場のトイレの前に置かれていたプラスチックの白いベンチに座っていると、なにも自分を傷つけない優しい世界にいるような気がしていました。

 今となっては、タピオカ屋さんや家電量販店が入ったりして人でにぎわっているお店なのですが、当時は人がまばらで、どちらかというと寂しい建物だったのです。

 もちろん、ただのスーパーなのでライブができるような場所はありません。CD屋さんが入っているわけではないので、インストアライブの開催もしていない。地域の人が集うスーパーです。

 けれど、目標地点としてどうしてもイトーヨーカドーでライブがしたかった。あのころ、ひとりで座っていたわたしがずっとあのベンチにいるような気がしていたからです。

 SNSでそれをつぶやいたところ、「実現しよう!」という声をたくさんもらい、勇気を出してお店に企画書をもちこみました。その経緯を説明したところ店長さんは快諾、社長さんも「当時よく座っている子がいた」ということを記憶してくださっていたようで、お店をあげて応援してくださることになりました。

 ライブ当日、事前に地元の新聞社の方が取材をしてくださったこともあり、会場に入りきらないほどたくさんの方が見に来てくださいました。わたしはどの言葉もひとつも読み落とさないように、絶対に泣かないと決めて朗読をしました。

 イトーヨーカドーでのライブを終えて、次の場所へ向かう途中、感傷的な気持ちにはなりませんでした。とても嬉しい気持ちでいっぱいだったのですが、ただ、「ああ、はじまったんだ」と思いました。

 もっと気が抜けたり、ゴールをしたような気持ちになるかと思っていたので拍子抜けしました。ゲームをクリアしたと思ったら裏面があったような気持ちです。そうか、人生ははじまり続けるんだな。

 目標は終わった、と同時に、次のわたしがはじまったのです。

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