K‐POPでいってみよう! 第6回
山田孝之主演で映像化された村西とおるの評伝『全裸監督』の著者であり、多くのノンフィクションを手がける本橋信宏は、無類のK‐POPファンでもあった。K‐POPの魅力について縦横無尽に語ってもらう連載がスタート。
※ ※
K‐POPに激震が走っている。
天下をとったかに見えた日韓合同アイドルチーム、IZ*ONEが解散危機にあるのだ。
大騒動を一言で言えば、オーディションの裏側で出来レースがあったのではないか、という疑惑である。
サバイバル・オーディション番組『プロデュース48』に96名のスター候補生が出場、2カ月間にわたり歌・ダンス・パフォーマンスといった分野で競い合う。途中経過の順位が発表され、勝ち残るのは誰なのか、視聴者が重大な関心を持ち、視聴率も跳ね上がった。
国民プロデューサという名前の視聴者が応援するスター候補生にネットを通じて投票する。このとき10円ほど費用がかかる有料投票になっていた。
韓国内の視聴者によるネットでの投票によってついに12名が選ればれた。韓国から9名、日本からは3名。AKB48の宮脇咲良、矢吹奈子、本田仁美が勝ち抜いた。
12人はIZ*ONEというグループで日韓デビュー、たちまちK‐POPでも人気第1位になる。
12人はダンスパフォーマンスするにはちょっと多すぎないかと思ったが、デビュー曲『La Vie en Rose』はまさに12人だからこそ成立する名曲に違いなかった(/articles/-/67243)。
薔薇の赤い花びらが舞い散る振り付けは、何度見ても鳥肌がたつ。メロディといい哲学的な歌詞といい、KーPOP界いや、ポピュラー楽曲史のなかでも最高傑作といっても過言ではない。
* *
オーディションのスター候補生たちはみな所属プロダクションがあり、半プロ的な存在であった。
プロダクション側が番組を仕切るプロデューサに現金を渡し、性接待を斡旋していたとされ、見返りとして所属タレントの順番を上位にアップさせる工作があったという。
審査結果に不満を持つファンたちが真相究明委員会を起ち上げ、ソウル中央地方検察庁に番組関連企業などを告発する。
番組プロデューサー・アン・ジュニョンが取り調べを受け、企画・放映していた音楽専門ケーブルテレビチャンネル「Mnet」とその親会社「CJ ENM」、複数のプロダクションが家宅捜査を受けた。
当初は芸能界のごく一部のスキャンダルに過ぎないとされたが、事態は日を追うごとに大きくなっていった。
アン・ジュニョンプロデューサー自身が、順位を工作したことを認めて、事態は最悪の状態になる。
上位で勝ち残るだろうと言われた最有力メンバーが脱落、途中から急激に順位を上げてきたメンバーがいて、当初から不自然さが噂されていた。
不自然な順位だったとされるのは3名。
疑惑の3人はいずれも韓国メンバーであり、皮肉なことだがIZ*ONEメンバーのなかでも人気上位だった。
一般視聴者からの投票制度、というシステム自体に問題があるのではないか、とは前から言われていたことだった。
韓国内での投票だから、韓国人候補者が有利だろうし、構成上人数を多めに操作しているのだろうとも言われた。
12名のグループは、歌唱力、ダンス、ラップ、ルックスとそれぞれの分野で秀でたメンバーで構成させるものだ。ところが投票で選ばれると、バランスが崩れる危険性がある。事前にメンバー構成をすりあわせていたことも考えられる。
日本でも昔から音楽賞やミスコンテストには裏取引があったというのは公然の秘密である。
この程度のことで逮捕されるなら、日本でも昔から逮捕者続出だっただろう。
詐欺罪の成立には、経済的損失をこうむることが大前提であるから、投票した多くの視聴者が1回10円支払ったことが、主催者側の首を絞めたことになる。
組織的投票を阻止することと、大量の投票で濡れ手に粟のカネをつかもうとしたことが仇となった。
一般投票が馴染まないこともある。
1958年完成の東京タワーは、本来、国民投票で名前が決定されるはずだった。第1位に選ばれたのは、「昭和塔」だった。
なにやら浅草下町の怪奇レトロな雰囲気になってしまう(それはそれでアリかも知れないが)。
審査側が出したのが「東京タワー」だった。
投票のなかでも東京タワーは下位に過ぎなかったが、いまでは都会の夕暮れに生える見事な命名として違和感なく、タワーという名前を知らしめることにもなった。
* *
順位が操作されたことで、IZ*ONEは“操作グループ”という汚名を着させられ、活動もままならなくなった。
11月にデビュー1周年記念発売されるはずだったアルバムもストップがかかり、デビュー映画も延期、紅白歌合戦も初出場間違い無しと思われたが落選、IZ*ONE解散説まで流れている。
順位操作で落選した参加者たちは、複雑な思いだろう。
落選したAKB48チームの高橋朱里のように、6人組の新星「ROCKET PUNCH」としてK‐POP界にデビューすることもできるのだから、ここは吹っ切って再挑戦してもらいたい。
AKBという安定した地位を捨てて異国の地でチャレンジした宮脇咲良、矢吹奈子、本田仁美にしても、やっとつかんだ世界的スターの座が崩れ落ちようとしていることにいたたまれない思いだろう。
選ばれた12名も被害者である、と韓国・日本から解散に反対する潮流も生まれている。
事態は予測がつかない。
11月12日に、警察から順位操作の捜索が発表されたが、具体的進展はなかった。
11月19日現在、解散の流れが強まっているが、解散反対の声もそれ以上に強まっている。
奇跡が起きる可能性もある。
『La Vie en Rose』が二度と見られなくなるのはあまりにも辛い。
https://www.youtube.com/watch?v=HIaoU5UZghQ
아이즈원(IZ*ONE) - 라비앙로즈(La Vie en Rose) 교차편집(stage mix)
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