■大井造船作業場で服役する受刑者に待っていたのは!

 そして、いよいよ大井での生活が始まった。大井造船作業場で服役する受刑者は、同施設内の『友愛寮』(鉄筋コンクリート5階建)で生活する。4階と5階が受刑者の居住スペースで、4人一部屋で2段ベットが2つある。ここには、一般刑務所のような鉄格子はない。手錠もされない。もちろん刑務官はいるが、制服ではなく現場監督が着るような服を着ていたという。そして一般刑務所との一番の違いは、大井の刑務官は基本的に周りで見ているだけで、日々の労役から炊飯、洗濯までは受刑者同士が中心となって行う点だ。A氏が服役していたときには、大井には受刑者で構成される“自治会”という組織があった。トップである自治会長の下、各担当リーダー、各自治委員、1級生、2級生、新入生という上下関係の中、日々の生活を送る(前述の平尾受刑者の脱走事件により、大井での自治会制度は解体された)。

 起床は午前6時。7時20分に集合し造船所の作業現場へ(食事や洗濯を担当する経理班は寮で作業)。造船所では、民間企業の作業員とともに、造船用パーツの鉄板の溶接部分を磨いたり、ときには小さな鉄板を溶接、切断することもあったという。午後5時に作業は終わり、就寝は10時と他の刑務所(9時)より遅い。土・日は休みだ。これだけ聞いて、受刑者同士が和気あいあいで楽と思ったら、大間違い。そこには、絶対的な序列があり、上からの注意・指導は絶対なのだ。〈「えっ?」とか、「イヤそれは」とか、返事をする際に、そういう言葉を口走ってはいけない。ほんの少しでも口から出ようものなら吊るしあげられ、あいつは反抗する奴だとレッテルを張られ、精神的に追い詰められていく〉

 また、些細なことすべてに決まりごとがあり、靴箱への靴の入れ方一つとっても、ピタリ、真ん中に一瞬で置かなければならない。1ミリでも外にはみ出していたら“ガチられる”という。「“ガチられる”というのは友愛寮独自の表現で、怒鳴られることをいいます。 “オラオラ、ヤル気あんのかぁ”“本所(松山刑務所のこと)に帰るかぁ”などと、チンピラのようにスゴんで来る人もいました」

 朝起きたときのシーツの畳み方も同様で、シワが少しでもあったら同じく“ガチられる”。食事の皿の回収時の重ね合わせの順番まで、決まっているというから驚きだ。〈2段ベッドも序列があり序列が高い人が下。ベッドを上り下りする際、鉄のハシゴが少しでも『ギィ』と音を立てると謝らなければならない。謝るのを忘れたら、すぐさま『オイコラァ』と怒鳴られ、ヘタをすると木にしがみついたセミのように、しばらくハシゴにしがみついて謝り続けなければならない〉

 こうした日々の訓練の成果で、点呼などは自衛隊員よりも速いだろうと話す。

 そのうえ、作業員心得、大井7則、大井5姿勢、寮内3大目標、一般遵守事項、具体的努力の方法など、覚えることが山ほどあり、序列が上の人に突然、「どれか言ってみろ」といわれ、一句間違うどころか、少し言いよどむだけでもやり直しさせられる。ひどいときはガチられる。そのため、〈特に新入生はベッドに入ってからも、覚え事の確認を小声でやるのである。夜中12時、ひどい時は1時や2時まで。土日も休めない〉

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