2013年8月から2014年8月まで『月刊アクション』(双葉社)で連載された、すたひろ氏による漫画『和太鼓ガールズ』が、2020年に『叩き壊すほどに君へ-WADAIKO GIRLS-』のタイトルで実写映画化されることになった。東京オリンピック・パラリンピックを前にして国内外から「日本文化」が注目されている中、日本古来の伝統文化である和太鼓をテーマにした映画が公開されることが、大きな話題になっている。
しかもこの和太鼓映画、ちょっと変わった設定なのだ。
物語の主人公は松沢環という17歳の少女だが、お金持ちの子女ばかりが集まるミッション系のお嬢様学校に通い、何一つ不自由のないスクールライフを送っている。まずこの舞台背景からして「和太鼓」とはかなりかけ離れた設定のように感じる。しかし、ここで環は人生の大きな転換期を迎える。こともあろうに、お父様の会社が倒産してしまうのである。当然、環の生活も一変。裕福な生活から一気にど貧乏へと転落していくのだ。
つまり、環は和太鼓どころか笛ひとつ持てない環境に置かれてしまうのである。ますます和太鼓から遠のいていくストーリー展開。鑑賞者はもはやこの映画が『和太鼓ガールズ』だということすら忘れかけてしまいそうになる。
自分の力ではどうにもならない絶望と不安にさいなまれる環。そんなとき、どこからか心の底に響くような「音」が聞こえてくる。音に導かれるように近づいていくと、そこには同級生が和太鼓を叩いていたのだ。その子の名は新島マリア。実は彼女は事故で声帯を失い、言葉を話すことができない。そんなマリアにとって、和太鼓は言葉に代わるコミュニケーションであった。
マリアとの出会いによりどん底から這い上がる勇気を得た環。一方、環との出会いによって言葉を話せないハンディを克服しようとするマリア。2人の少女は和太鼓を通じて少しづつ成長していくのである。
実は、この映画にはテーマの他にもうひとつ大きな話題がある。それがヒロイン役の存在だ。
本作は紺野彩夏と久保田紗友がW主演を務めており、それぞれまったく個性の異なる女優の共演も見どころのひとつになっているのだ。
松沢環役の紺野彩夏は雑誌『Seventeen』(集英社)の専属モデルとして活躍し、『仮面ライダージオウ』(テレビ朝日系)にも出演。雑誌モデルからヒーローものまで幅広い分野で活躍する異色の経歴の持ち主である。ちなみに紺野は今回の作品が、映画初出演となる。
一方の新島マリア役の久保田紗友はドラマ『過保護のカホコ』(日本テレビ系)、『この世界の片隅に』(TBS系)、『左ききのエレン』(TBS系)などの話題作に出演が続く正統派女優。まったく違う世界で活躍する若い2人が伝統文化である「和太鼓」を中心に人間模様を表現しているところが興味深い。
本作の制作にあたり、映画の指揮をとった奥秋泰男監督は次のようなコメントを述べている。
「まず日本の伝統文化である和太鼓の世界をリアリティに描くことにこだわりました。同時に多感な17歳の少女が持つ純真さと、それを取り巻く世の中の不条理を対峙させ、懸命に生きる「人」の姿を表現しました。この2つの素材を組み合わせ、信じること、生きることの意味を追求した人間ドラマが本作です。この作品は、女学生が主人公ですが、よくあるキラキラ学園物語とはまったく異なる新しい青春映画であると自負しています。多くの国や世代の方々に楽しんでいただければ幸いです」
公開は2020年少女と和太鼓の異色のコラボ映画が、世の中にどのような衝撃を与えるのか。今から楽しみである。