風の匂い。馬の息遣い。馬蹄の響き……。競馬場には、いつもと変わらない風景がありました。でも、ふと見上げると、スタンドには、いるはずのお客さんの姿がなく、ちょっと怖くなるくらい、シーンと静まり返っていました。

 サウジアラビアでレースに参戦していた僕にとって、これが、初めて経験することになった無観客でのレースです。想像はしていましたが、やはり寂しさは拭えませんでした。ですが、嘆いてばかりもいられません。こんなときだからこそ、僕ら騎手はやるべきことを、きちんとやるだけだと、気合いを入れ直して、一つ一つのレースに集中することを心がけて騎乗させてもらいました。

 結果は、3月7日土曜日の阪神が、8鞍に騎乗して3勝。勝った3歳未勝利のサウザンドスマイル、スズカキング、但馬Sのブラヴァスともに、いいレースができたと思っています。

 翌日曜日は中山。8鞍に騎乗して、勝ったのは、総武Sのメイショウワザシと、もう一つ、今年から「弥生賞ディープインパクト記念」と呼称が変わった、僕にとっては、なんとしてでも勝ちたいレースでした。

 ディープ産駒のパートナー、サトノフラッグは、馬上から眺めた感じがディープによく似ていて、フットワークも、お父さんにそっくり。序盤は後方に控え、直線の短い中山コースで、3コーナーから、自ら上がっていこうとする姿を見たときは、飛ぶようだったあのディープインパクトの走りを思い出していました。昨年、ディープが亡くなり、ディープの仔で、このレースに勝つチャンスは、もう、それほど多くはありません。だからこそ勝ちたかったし、実際に勝てたことは、僕にとっては二重、三重の喜びになりました。一つだけ、この喜びをファンの皆さんと一緒に味わいたかった、ということを除いては……。口取りの記念撮影が終わったあと、誰もいないスタンドに向かって手を振り、「ありがとうございました」とつぶやいたのは……一日も早くいつもの競馬場に戻ってほしいという僕の願いです。

――新型コロナウイルスなんかには絶対に負けない。3月20〜22日は3日間競馬で、僕が騎乗するのが決まっているのは、22日の阪神大賞典。パートナーのボスジラは、ディープと同じ金子真人オーナーの馬で、調教師はサトノフラッグの国枝先生。お父さんはディープと三拍子そろったチームでの挑戦です。

 ボスジラは、目下3連勝中の上がり馬。前走の早春Sはゲートの出こそ、いま一つでしたが、道中の走りはまずまずで、直線でスッと先頭に立つあたりは、能力の高さを十二分に感じさせてくれました。かなうことならば、満員の競馬場でレースをしたいところですが、無観客が続いていたとしても、皆さんが熱くなるような競馬をお見せします。

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