■3期生がセンターとして足を踏み入れた〈異界〉

 広大な屋敷に侍女として迎え入れられた大園と与田の二人は、その屋敷に住まう「伊丹家」の人々の異様な振る舞いや生活習慣を覗き見てゆく。この二人の役どころは、他の乃木坂46メンバーが演じる伊丹の住人たちのエキセントリックさを俯瞰的に説明してみせるものでもある。

 そして同時に、外の世界からの来訪者として伊丹家にやってきた二人の侍女の姿は、この18枚目シングルで初めて表題曲に参加する3期生メンバーが、アイドルという〈異界〉に足を踏み入れてゆく軌跡とも重ね合わされる。2017年は乃木坂46の3期生が本格的な活動を開始し、舞台演劇やライブパフォーマンスなどオリジナルの成果を蓄積してゆく年となったが、『逃げ水』MVはその時機を象徴する作品といえるだろう。

 2018年の20枚目シングル『シンクロニシティ』では、その3期生メンバーたちの個人PVが制作される。前年の『逃げ水』で、外界からやってきて山岸的世界を垣間見る侍女を演じた大園桃子は、今度は個人PVの枠組みで山岸とタッグを組む。いわば、今回は大園自身が山岸の描く世界の主たる住人として立ち振る舞うことになる。

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