飯村健一
飯村健一

バナー題字・イラスト/寺田克也

 

「まさか疫病でこんなことになるとは思っていなかったですね」

 単刀直入に新型コロナウイルスについて聞くと、実戦性と安全性を重視した武道スポーツ「空道」の普及に勤める大道塾の吉祥寺支部・飯村健一支部長は、気持ちよく汗を流したあとはおいしいビールを飲んでいた平穏ながら充実した日々を懐かしむ。

「この騒動が起こってから自宅でしか飲まなくなりましたからね」

 飯村といえば、現役時代は卓越した打撃技術を武器にKOを量産した格闘家として知られている。活躍のフィールドは大道塾だけにとどまらず、本場タイでムエタイに挑戦したこともある。その技術は現役選手からも一目置かれており、現在もプロ格闘家のセコンドに就く機会は多い。

 その一方で作家・夢枕獏とも親交が深く、吉祥寺支部の節目となる年度には夢枕獏プロデュースの記念大会「スック・ワン・イイムラ」が開かれる。出場選手は飯村とゆかりのある選手や元選手など多数。昨年開催された記念大会には青木真也(元ONEライト級チャンピオン)、佐藤嘉洋(元WKA世界ムエタイウェルター級チャンピオン)、T-98(元WKA世界ムエタイウェルター級チャンピオン)らが出場して大いに盛り上がった。

昨年末には15周年記念大会が盛大に行われた
昨年末には15周年記念大会が盛大に行われた

 そんな飯村も中国で新型コロナウイルスが発生した当初は、それほど意識していなかったという。

「最初に耳にしたのは横浜に停泊したクルーズ船のニュースですかね。その時は対岸の火事のような感じで、何とも思っていなかった」

 最初に「オヤッ!?」と思ったのは、大手のアスレチックジムで感染者が出て、休業するジムが出てきたあたりからだった。

「あれからジムや道場を閉めるところが出てきましたからね」

 都内でも感染者が徐々に増えていく中、飯村は道場を開け続けた。「普通に子供のクラスもやっていましたね」

 もちろん、新型コロナに対する最大限の予防策を嵩じた。手洗いやうがいを推奨し、他の多くのジムがやっているように、使用した用具やマットは新型コロナ騒動以降脚光を浴びる次亜塩素酸水での消毒に務めた。

 それでも、新型コロナの急速な拡大を踏まえ、4月7日東京都が緊急事態宣言を出すと状況に大きな変化が現れた。「まず子供が来なくなりました。うちはオジさん連中も多いんですけど、彼らも奥さんに引き止められるようになってしまいましたね」

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