『ゆうえんち―バキ外伝―』(週刊少年チャンピオン』)連載第86回より
『ゆうえんち―バキ外伝―』(週刊少年チャンピオン』)連載第86回より

バナー題字・イラスト/寺田克也

 

『がんばれ!格闘技』の言い出しっぺ、夢枕獏さんから、2回目となる原稿が届きました。現在、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて連載中の格闘小説『ゆうえんちーバキ外伝ー』連載スタートのエピソード、書き出し時の着想のプロセスなどをお楽しみください。
そして、ひとつお知らせを。獏さんが、『がんばれ格闘技 そして小さな発見 「ささやかながら文芸に力あり」』と題して、こちらに今のお気持ちをつづっています。あわせて、こちらもぜひ。↓から直接アクセス可能です。

『ゆうえんちーバキ外伝ー』のこと 夢枕獏

 今、ぼくは少年漫画誌『週刊少年チャンピオン』に、格闘小説の連載をやらせていただいている。

 同誌の人気連載漫画、板垣恵介さんの「グラップラー刃牙」シリーズの外伝で、タイトルは「ゆうえんち」である。

 バキシリーズの最凶死刑囚編がアニメ化されるのに合わせて、依頼が来たのである。

 これは断る手はない。喜んで書かせていただくことにした。

 主人公のバキ、範馬勇次郎、花山薫以外のキャラクターであれば、いかようにでも使っていいということであった。なんというおもしろい仕事か。もちろん、多くのファン(ぼくもそのひとり)がいて、それぞれのキャラにみんなの思い入れがあるわけだから、いかようにもと言われたって、わきまえておくべきはわきまえておかなければならない。

 すぐに決めたのは、すでに本編のほうでは決着のついているキャラ、もう登場することはあるまいと思われているキャラを使おうということであった。

 それにプラスして、新しいキャラ(できれば本編と無関係でない)を出せば、それだけでおもしろくなるに違いないと思ったのである。

 そこで、選んだのが、毒手の柳龍光であった。

 この死刑囚たち、柳をはじめとして、スペック、ドリアン、ドイル、シコルスキー、いずれも凄い奴らなのだが、全員、ファーストシーンでは、それぞれ牢に入れられている。ということは、みんな、どこかで誰かに敗れて一度は捕まってるんじゃないの。ならば、この外伝は、柳龍光を、誰かが捕まえる物語にしようーーそう考えたのである。

 つまり、最凶死刑囚編の前の前日譚のようなものを書けばいい。これならば、本編に与える影響は少なくてすむし、読者の本編に対する思い入れを、大きく損なうこともないであろう。

 では、その捕まえる方を誰にするか。

 よし、愚地克巳に兄がいたことにしよう。その兄貴が様々な逆境を乗り越えて、最後に柳龍光と対決する。これだよ、これ。そもそも、克巳は、愚地独歩の養子だし、実は兄がいたという設定も、それほど無理がないのではないか。

 タイトルは「ゆうえんち」。実は世の中には、強いのに地下闘技場に行かない連中がいて、そいつらが闘う場所がある。彼らはなぜ、地下闘技場に出場しないのか、それは、地下闘技場の試合にはファイトマネーがないからである。だから、金の欲しい強い連中が集まるのは、“ゆうえんち”の方。いいじゃん、これ。

 書き出した時に考えていたのはこれくらい。あとは書きながら考えるといういつものやり方でいこう。

 と決心して、書き出したのである。

 一年ほどで終わるつもりが、長くなってしまったのはいつもの通りだ。

 これには理由がある。

 Aというキャラを立てたいときには、やられ役のBというキャラが必要であり、このBの強さを立てるには、Cというキャラが必要でーーとやっていくと、主人公・葛城無門と闘うキャラを四人出すとすると、単純計算で、八人のキャラが必要になってしまうということになってしまったのだ。しかも、書いてゆくと、ことはそんなに簡単なことではない。あれもやりたい、これもやりたいということで、書きたいことがどんどんふくれあがってしまい、ついに三年目突入ということになってしまった。

 もともとやっていた連載が十本。これに『チャンピオン』の連載と、新聞の連載が加わって、現在十二本の連載を平行してやっているのだよ。その中にはもちろん『キマイラ』も『餓狼伝』も『陰陽師』も入っている。年内に始める予定だった三本の連載を先送りにして、毎日毎日原稿の日々なのである。もう六十九歳だよ。どうなっているんだ、おれ。

 まあ、とにかく『チャンピオン』の連載が楽しい。

 小説というのは、どういうものであれ、ファンタジーだと思っている。

 格闘小説もそう。

 その同じファンタジーでも、ぎりぎりありそうなファンタジーになっているのは『餓狼伝』である。ここからはるかにぶっとんだファンタジーになっているのが『バキ』だ。『ゆうえんち』は、この『バキ』と『餓狼伝』の中間くらいのファンタジー度を意識している。つまり、『餓狼伝』でやれなかったことをひたすら書けるおもしろみがある。それもこれも、『週刊少年チャンピオン』という少年漫画誌の立ち位置にある。

 ああ、幸せなおれ。

 それに絵が素晴らしい。小説の中には、ふんだんに絵が入っている。漫画の絵だ。藤田勇利亜さんという漫画家の絵が、最高である。連載中にも、どんどん上手になって、迫力が増して、ぼくとしては、早くこの連載を終えて、藤田さんに漫画を自由に思う存分描いていただきたいのだが、ついつい長くなってしまうのが申しわけない。

 つい、長くなる。たぶんぼくは、世界で一番、素手の格闘小説を書いている人間だと思う。

 ああ、藤田さんのことだ。

 僕が、文章で格闘シーンを書くーーそれを藤田さんが、どう絵にするのかは、ぼくの毎回の楽しみでもあるのだが、時には、このシーン、文章でどこまでイメージが伝わっているか不安になる時がある。そういう時、こういうシーンであると、ヘタクソな絵を描いて、原稿をお渡ししているのだが、それをここで紹介しておこう。

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