■コロナや家族の言葉を受けて

 DEEPフェザー級の頂点に立ってなお、「格闘技一本でやっている選手が、僕なんかに負けるのがおかしい。僕にとって格闘技は趣味。強くなることが楽しいから続けていて、MMAに見返りを求めていない。サラリーマンをしていて生活の基盤があるからこそ、格闘技が楽しめるんです」という持論を持ち続けていた。

 それゆえにコロナの時代を迎え、急激に社会が変わるなかで、この時期に格闘技イベントが存在し、自分が戦うことに疑問を感じるようになっていく。自身は満員電車に揺られ通勤しつつも──。

 昨年、第一子が誕生した彼に、まず奥方から「できればやめて欲しい」という言葉が聞かれた。試合までカプセルホテルに宿泊し、家族と離れて練習を続けることも頭にあった弥益だが、3月22日にK-1がさいたまスーパーアリーナで決行され、社会の目が格闘技自体に厳しくなるなかで、練習頻度は減っていった。オフィスでは冗談口調であるが、格闘技をしていることを揶揄されることもあった。

 4月、在宅勤務となり、弥益は対人練習を行うことはなくなり、欠場を申し入れることで気持ちは固まった。彼自身、職業格闘家にとって格闘技が不要でないことは理解している。ただし、趣味程度で濃厚接触の機会を設けることに対してでも、ハッキリと異を唱えていた。「経済活動の自粛と感染者拡大の関係については、答は出ないです。でも、僕にとって格闘技は非日常を楽しむモノ。だからこそ正常な日常があって、初めて楽しむことができる」と。

 そんななか4月17日には「Road to ONE 02」が会場非公開、無観客大会で開かれた。ケージの周囲には防護服で身を固めたスタッフの姿が立ち並ぶ大会を弥益はABEMAのライブ中継で視聴した。

「久しぶりの格闘技イベントを待ち望む気持ちがある一方で、後ろめたさも感じました。結果的に2週間後まで感染者はいないということも報じられましたが、視ている時はあの場で感染があると格闘技に対するネガティブな報道がされ、立場が悪くなるという気持ちがありました。なので100パーセント楽しめる心境ではなかったです」

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