■『俺だってできる』ではなく、『俺たちはできる』
6月のTTFC08も指導及びONEと日本格闘技界の架け橋になることで興行から離れていた長南を坂本氏がフォローし、グラスルーツ大会=Fighting NEXUSの山田峻平氏もサポートを約束した。それにしても、このタイミングで身銭を切ってイベントを開く必要性はあるのか、そんな問いに長南は淀みなく返答した。
「必死に練習しているのに、その成果を披露する機会がない。ウチの選手も試合が流れている。リスクをおかさないと大会を開けないなら、自分がやるしかないじゃないですか」
その一方でTTFC08は、コロナ時代の格闘技イベントの命綱と言っても過言ではないABEMAでの中継はない。映像制作や安全対策という面で協力を得るものの「デビュー戦やデビュー間もない選手達の試合ですし、ABEMAやスポンサーの力を借りて大々的にやるものじゃないです」と長南はその理由を話す。
と同時に、この大会はPIA LIVE STREAMによって初めてスポーツ有料配信される。PIA LIVE STREAMは、言わずと知れたチケットぴあのライブ動画配信サービスだ。チケット発売業は現在、ライブ、コンサート、スポーツイベントの中止により、サービス自体を停止せざるをえない状況にある。コロナウィルス感染拡大に最も大きな影響、いや被害を受けたといっても良いだろう。
「ぴあでチケットを販売してもらって、格闘技大会は成り立っていたんです。そのチケットぴあと新しい形の格闘技イベントの収益方法を模索する。RTO2と同じで、動き出すことで得られる経験があるはずです」
格闘技界が成り立つには、人材の育成は欠かせない。そのためにトップ選手だけでなく、これからの選手、アマチュアという層が試合に出ることが不可欠となってくる。TTFC08のPIA LIVE STREAMには、家族や友人も応援に駆け付けることができない大会が運営費を如何に捻出するのかという着眼点を持った試みというわけだ。
さらに長南は言葉を続けた。「金を出して格闘技を観る。この習慣がなくなるとコロナが終息しても、格闘技は立ち行かなくなりますから。誰もやらないから自分もやらないでいると、これまでの人生を否定することになる」とやや強めの口調で話すと一点、長南は静かに語った。悲観的になることも、荒ぶることもなくーー。
「今年の2月までのように会場にファンの人たちが大勢来てもらえる格闘技は、1年や2年は開けない。3年は掛かると思っています」
あの日、桜井という相手を前にして現状打破、破壊を試みた長南亮は今、新しい時代の確立に踏み出している。これぞ活殺術。殺法と活法は表裏一体、破壊してきた長南だからこそ確立も可能なはずーー『俺だってできる』ではなく、『俺たちはできる』。そんな言霊が、コロナという難敵を前にした彼の言葉には宿っていた。
(取材・文=高島学)
『TTF CHALLENGE 08』
チケットぴあ初のスポーツLIVE STREAM中継。メインでは空道で2連覇の実績を残す岩崎大河がヒカルド・スープリスとのMMAデビュー戦に挑む。動画視聴はチケットぴあマイページ内の購入履歴詳細内のリンクからのみ可能で、大会後1週間は追いかけ再生が可能。6月5日(金)チケット発売予定。
長南 亮(ちょうなん りょう)
1976年10月8日、山形県生まれ。TRIBE TOKYO M.M.A代表。PRIDE、DREAM、UFCを始め数々のメジャーイベントで活躍し、UFC参戦時はアメリカに渡り数々の技術を修得。DEEPでは第3代ミドル級、第6代ウェルター級の2階級で王者に。2013年10月に現役を引退し、ジムの運営や選手のサポート、選手育成に努めている。
高島 学(たかしま まなぶ)
1967年9月28日生まれ。兵庫県神戸市出身。UFCを始め、海外で行われているMMAイベント及び、国内のケージ使用MMA大会、国内外の柔術&グラップリング大会の情報、試合レポート、選手や関係者のインタビュー等を配信する専門サイト『MMAPLANET』を運営するとともに、『FIGHT&LIFE』『GONG格闘技』の専門誌で執筆活動を続ける。
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