■コロナ対策に知恵を絞りつつも営業再開

 6月2日、鈴木はあらゆる知恵を絞りながらSTRUGGLEの営業を再開した。

「コロナ前までは会員の皆さんに好きな時間に来ていただき、思い切り動いてもらう。あるいはそれぞれのペースに合わせて身体を動かしてもらっていました。しかし今回再開するにあたり、人数制限をするために予約システムを取り入れました」

 6月上旬の時点で一度に練習できる人数は最大6名。ジムは約59坪もあるので、この人数なら3密になる心配はない。

「1時間に1回は換気して、空気を入れ換えています。さらに会員さんが触れるドアノブなども定期的に拭くようにしています」

 練習中、マスクは会員もスタッフも必要不可欠なアイテムとなった。

「非常事態宣言が発令され休業するまではスタッフ陣は着用していたけど、会員さんには義務付けてなかったんですよ。また今回再開するにあたりミット打ち(トレーニ ング)も少しはやりたいと思い、ひとり2ラウンドまでと制限を設けな がら打ってもらうことにしました。長時間一緒にいたらリスクは高まる。その中で人を入れ換えたりしてやっていけばいいかと」

サンドバックなどの練習器具は、使用後はもちろん定期的に丁寧に除菌している

サンドバックなどの練習器具は、使用後はもちろん定期的に丁寧に除菌している

 当初は練習時間を60分にしようと思ったが、いろいろ考えた末に90分に設定した。「ウチの会員さんは昔からという人が多い。そうなると、スタッフと『最近どうですか?』といった雑談をする時間も欲しい。ある種生存確認のような会話だけど、これは精神衛生上いいと思う。近距離、あるいは長時間の会話はNGですけどね」

 フリーレッスン制から予約レッスン制への移行には一抹の不安があったが、予想以上に予約する人は多い。

「いまの状況だと6名は余裕なので、もう少し予約の枠を増やそうかと計画しています。ただ、その矢先に東京アラートが発令されたので予断は許されない。状況に応じて動く人はマスクをとってもらったり、人数を増やすことを考えていきたい」

 時間が経つごとに疑問も増えてくるが、鈴木は慌てて結論を出そうとは思っていない。今回の新型コロナに対しては誰もハッキリとした状況がわかっていないからだ。

「いまはこうではないかという推論に対して、『だったらこうするのがベストではないか』と自分の意見をすり合わせていくのが最善かなと」

■ジム会員だけでなく会員の家族も大切に

 STRUGGLEを設立して以来、鈴木には不変のポリシーがある。「格闘技を通して会員さんたちに幸せになってほしい」という願いだ。その思いは会員の家族にもつながっている。「だからこそコロナ禍であっても、会員さんの家族には安心してほしい。世間はこういう状況だけど、『STRUGGLEはここまでケアをしてくれている』と思ってもらえたら、安心して家族をジムに送り出せるじゃないですか」

 ハッと気づかされた。コロナ社会の中、ジムワークは個人の問題ではないということを。鈴木は言葉を続けた。

「家族がジムに行くことでの感染リスクを考えると、残された人たちは不安になる。だったら不安をかかえたまま練習してもらうのではなく、安心して動いてもらえる環境を作るしかない。ジムの方針として会員だけではなく、その人の家族も安心できる場所になることが一番なのかなと思いますね」

 その一方でコロナをきっかけに、鈴木はジムのあり方に大きな変化を感じている。

「今までは会員さんに強くなってもらうためにキックボクシングの技術を教えたり、ミットを持つことが主軸だった。でも、いまは密に教えるということができなくなってきているので、道具の整理や換気や消毒の徹底の比重がものすごく高くなってきている」

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