志朗
志朗

バナー題字・イラスト/寺田克也

 

3歳からキックボクシングを始め、15歳になると単身でムエタイの本場タイに渡った志朗。現地の選手たちに混ざって研鑽を積み、メジャースタジアムで活躍するまでに成長した。現在は、主戦場を日本に移し、逆輸入ファイターとして注目を集める。そんな志朗に、タイでのムエタイをめぐる状況と、先の見えないなか、いかに格闘技と向かい合っていたのかを聞いた。

 昨年開催された『RISE WORLD SERIES2019』-58kgトーナメント準決勝では現役のムエタイ王者ルンキット・ウォーサンプラパイを延長戦で撃破し、那須川天心との日本人同士による決勝戦を実現させた志朗。那須川には敗れてしまったが、世界トーナメントのファイナリストになったことで、志朗の名は今まで以上に世間に広まった。トーナメントに参戦して以降、志朗は地元大宮でよく声をかけられるようになったという。

惜しくも決勝で敗れたが、那須川天心と激闘を繰り広げた
惜しくも決勝で敗れたが、那須川天心と激闘を繰り広げた

 志朗にとって格闘技のベースとなるのはムエタイ。15歳で単身タイに渡り、現地のジムでタイ人に混ざってトレーニングを続け、最終的にはメジャースタジアムで開催されるテレビマッチの常連という位置まで上りつめた。見かけによらず、志朗はハングリーなファイターなのだ。RISEに参戦以来、活動の拠点をタイから日本に移したが、志朗にとってタイは長年住み慣れたところだけに愛着は深い。

 しかしながら新型コロナウイルスはタイにも容赦なく襲いかかった。かつて志朗も出場していた二大ムエタイ専用スタジアムのひとつ、ルンピニースタジアムでは3月6日にクラスターが発生し、観客に集団感染した。現地事情に詳しい志朗に話を聞くと、日本では報道されていないものの、当時ルンピニーのコロナ対策はしっかりしていたという。

「入場時の検温からマスク着用までしっかりやっていました。それでも感染してしまうのだから本当に感染力が強いウイルスなんだなと思いましたね。近くに感染者がいたら防ぎようがない」

 結局、この日、ルンピニーだけで100名以上の感染者が出たおかげで、タイにおけるムエタイのイメージはかなり悪くなってしまったという。イメージ回復を祈るばかりだが、6月になってからはタイにおける新型コロナウイルスの感染者数は小康状態が続き、経済活動も徐々に再開している。ムエタイの定期戦も、ようやく復活の兆しが見えてきた。

■コロナ後の対応は静観の姿勢

タイでの試合後、勝利者インタビューに答える志朗
タイでの試合後、勝利者インタビューに答える志朗

 

 といっても、いきなり決定事項が覆るのもタイの流儀。6月20日にバンコク郊外のオームノイスタジアムから再開という話もあったが、スポーツ省の意向で7月上旬にスライドする可能性もあるという。先行した報道が間違いなのではなく、どんどん変化していくのがお国柄なのだ。タイ流の洗礼は幾度となく浴びているので、志朗はコロナ後のムエタイを静観する。

「最初は無観客でリングサイドは(関係者の総数が)50名までとか、いろいろ言われているけど、具体的な対策はまだ確定していないようです」

 6月28日には7チャンネル(現地のテレビ局)がテレビマッチを無観客で行なう予定だったが、これも7月12日にスライドされる可能性もあるとか。

「結局、ムエタイの興行はスポーツ省の承認待ち。いずれにせよ、7月になったら興行はできるという話になっていますね」

 現在、日本で行われるムエタイルールの試合は8~9割が前日計量になったが、タイのムエタイは当日計量が大原則。しかし今回の自粛期間中にプロモーターから「前日計量のほうがいいんじゃないか」という意見も出てきたという。

 前日も当日もどちらの計量も経験している志朗は疑問を投げかける。「たぶん前日計量になったら(当日計量と比べると)余分に落とせるんじゃないかということで、減量して(試合当日は体を大きくして)くる選手が多くなる。そういう意味で(減量失敗の体重超過で)試合をキャンセルする確率は前日計量のほうが多くなる気がしますね」

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