■母の葬儀で中井組長が

 その母は高知氏が明徳義塾高校3年のとき、トンネルの入り口に自らが運転する車で突っ込み、この世を去ってしまう。自殺だった。

「亡くなる2時間前、母が車に乗って突然、僕が暮らしていた高校の寮を訪ねてきました。車内で進路の話をした後、唐突に“私、キレイかな?”って聞いてきたんです。気恥ずかしさもあって、そのときは“おふくろ、キレイやぞ”と言ってやれなかった。フロントガラス越しに最後に見た母の顔は、泣きながら笑っていました。今も、その後悔が消えていません」

 母の葬儀で、中井組長が驚くべき行動を見せた。

「葬儀にやってきたおやじが、硬直する母親の遺体を抱えて“ちょっと、お母さんとドライブしてくるな”と走り去っていったんです。おやじはおやじなりに母を愛していたことが分かりました。男の背中を見たような気がして、“かっこいいな”と思ってしまいましたね」

 だが、母の死後、衝撃の事実を知る。中井組長は、実の父親ではなかったのだ。

「これまでずっと“中井の息子”だってことで、ケンカを売られ、売られれば周りが見ている手前、受けて立ってきた。でも、今度は息子じゃないってことがバレるのが怖い。とにかく荒れて、キレたら敵も味方もなく殴りかかっていましたね」

 “中井組長の息子”という周囲の目から逃れるように、高知氏は上京。だが東京に、来てからも、その噂には、いつも神経を尖らせていた。

「芸能界に入ってから、あるネット掲示板を見たとき、“高知は中井の息子だ”“中井の息子じゃない。おやじは徳島の××だ”と議論が二分して、勝手に炎上していたんです。自分の過去を世間に知られること以上に、当時の妻や仕事関係者に迷惑をかけてしまうことに、いつも恐怖を感じていました」

 高知氏は00年代に制作されたVシネマ作品『実録・鯨道  土佐游侠外伝』シリーズで、中井啓一組長役を演じている。

「オファーが来たときは……うれしかったですね。今思うと、母親は愛人だったけども、おやじはすごく大事にしてくれたし、僕もおやじからは大事にしてもらった。隠していながらも、おやじだけは、他人に演じてもらいたくないと思っていましたから。ただ、誤解しないでほしいんですが、任侠の世界に憧れはありません。母にも、そちらの世界に行くなと強く言われていました。まあ、芸能界で、侠客である“実父”を演じたのは、僕が最初で最後でしょうけどね(笑)」

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