dTVによるドラマはいずれも西加奈子の初期短編を原作としているが、特に遠藤のほか早川聖来田村真佑掛橋沙耶香金川紗耶らがメインキャストを務める「サムのこと」(監督:森淳一、脚本:三嶋龍朗)は、登場人物の配置や設定に大きく改変が施されている。

 事故で急死したサムの通夜に集まった仲間たちを軸に、話が展開する点は小説と同一だが、原作で学校やアルバイトを介した友人同士だった主要人物たちが、ドラマ版では、かつて同じアイドルグループに所属していた者たちに、置き換えられている。

 この設定ゆえに本作は、いつか現実世界の彼女たちにも訪れるポスト・アイドル期の人生を、フィクショナルな未来として、アイドル自身が擬似的に演じるものになっている。

 しかし、ドラマ「サムのこと」に映し出されるアイドルとしての日々は、成功を手にすることができなかった、どこまでも不完全燃焼の過去としてある。やむなくグループが解散してのち、人前に立つ仕事から離れてそれぞれの道を生きるサムの仲間たちが現在形で描かれ、それをまさに乃木坂46メンバーとしてキャリア初期の段階にある人々が演じる。

 この構造は自然と、アイドルという職業が個々人の人生の上でどのような位置を占めるのか、俯瞰するような視点をもたらす。

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