乃木坂46「個人PVという実験場」
第13回 中村太洸作品の豊かさ 4/4
■乃木坂46初期の映像作品から可能性の幅を広げる
企画そのものが高い実験性を持っていた個人PVのみならず、映像作品全体において乃木坂46はキャリア初期から野心的な試みを行なってきた。シングルリリースごとに4~5作前後制作されるMVでも、多岐にわたるアイデアを具現化してきたが、その中で中村太洸はギミック的な技術を用いた映像作品をたびたび引き受けてきた。
たとえばデビュー初年度の代表的な例が、2ndシングル『おいでシャンプー』収録の「偶然を言い訳にして」である。同作は中村が初めて乃木坂46のMVを担当した楽曲だが、ここで採用されたのは、乃木坂46が継続的に制作する繊細なドラマ型作品や、スケール感の大きなセットを用いた作品とは異なる手法だった。
https://www.youtube.com/watch?v=NvitdI9IGTM
(「偶然を言い訳にして」MV Short ver.)
1カット撮影が企図された同MVだが、単に楽曲の進行に合わせた一発撮りではなく、映像を逆再生することを前提にして振付や道筋が組み立てられている。夜になると命が吹き込まれるドールという設定もまた、逆再生ゆえに生じるメンバーの動きのぎこちなさと好相性をみせ、手法の独特さと描かれる世界観とが折り合ったMVになった。