田原総一朗インタビュー「コロナで“今までのやり方じゃダメだ”と気付いた」の画像
田原総一朗(撮影・弦巻勝)

 ジャーナリストとして活動するようになって50年、本当にたくさんの人々に会って話を聞いてきました。

 中でも印象深いのは、田中角栄さん。彼が失脚して6年後、『文藝春秋』のインタビューに答えてくれることになったんです。

 約束の時間の30分前には田中邸に着いたのだけれど、待てど暮らせど現れない。そこで秘書に「いったいどうしたんだ?」と聞いたら、「昨日、“田原総一朗について一貫目、資料を集めろ”と言われて、朝からそれをずっと読んでいる」と言うんです。僕は聞く側の人間で、田中さんはインタビューに答える側ですよ? すごいなぁと改めて田中さんを見直しましたね。

 それ以来、僕もインタビューの前にはその人に関する資料を徹底的に読むようになりました。新聞、雑誌、単行本と、手に入るものはとにかく全部読む。そのうえで会って話すと、わりに本音を語ってくれるんです。

 この夏、そんなふうにして会った100人の経営者の話をまとめた本を出版しました。松下幸之助、柳井正、孫正義……そうそうたる顔ぶれです。

 特に松下さんには10回以上会いました。何度目かに「経営者に大事なものは何か?」と聞いたら、「全社員がいかにモチベーションを持ち、働きがいを感じられるか」だと言っていた。

 今、日本の大企業では働きがいを感じていない人が多いように思いますね。自分の会社に対する好感度の調査で言うと、先進国の中で日本は非常に低く、「会社を心から愛している」という人が本当に少ない。辞めずにいれば給料がもらえて、やがて課長や部長になれるから、しょうがなしに勤めている。会社のやり方に異論を唱えようものなら左遷されるから、黙っている。これじゃあ、働きがいなんて感じられないよね。

 今は人工知能(AI)が発達して、このままで行くと、あと10年もすれば日本人の49%が仕事を失うと予想されている。もっと時代が進めば、AIが新たなAIを作り出すようになり、人類の仕事の90%がなくなるとまで言われている。

 そんなときに、“コロナの時代”が来た。もちろん、大変なことではあるけれど、これによって「今までのやり方じゃダメだ。変わらなくちゃいけない」と、多くの人が気づいたわけです。

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