■常勝を義務づけられてきたが

――セ・リーグは、巨人が独走状態のまま優勝を果たしました。巨人もまた、長い間、常勝を義務づけられてきたチームですが……。

達川 常勝軍団には変わらないけど、原辰徳監督も第3次政権になって、だいぶ方向転換をしているよね。

 私が広島の選手だった頃、巨人戦といえば、いつもテレビの地上波で全国生中継をしていて、誰もが見ることができた。だから、巨人は負ける試合を見せられなかったし、全勝しなきゃいけないというぐらいの気構えだったと思う。いわば“昭和の野球”というのかな。実際、長嶋茂雄監督、藤田元司監督、王監督が率いる巨人と対戦すると、ひしひしと、その強い思いが伝わってきたよ。

 ところが、平成の途中から地上波の中継が減っていって、令和の今、ほとんどなくなってしまったよね。そうした中、原監督は“令和の野球”をするようになった。全勝を目指すわけではなく、最終的に他の5球団よりも1つ多く勝って優勝すればいいという、ある意味、メジャー流の合理的な考え方に変わったような気がするね。捨てゲームといったら失礼だけど、先を見据えて、選手に無理をさせない柔軟な采配をすることもある。象徴的だったのが、8月9日の阪神戦で大量リードを許した8回裏、野手の増田大輝を登板させたこと。これには賛否両論あったけど、少なくとも“昭和の野球”をしていた頃には考えられなかったことだよ。

 それでも、巨人がペナントレースで1つ多く勝つどころか、圧勝した一因には、戦力だけではなく、監督の差があったと思う。広島とヤクルトが1年生監督、中日と阪神が2年生監督、そして横浜のラミレス監督でも5年目。それに対して、通算14年目を迎えた原監督は、過去にリーグ優勝8回、日本一3回。9月11日には、あの川上哲治さんを抜いて、監督として球団歴代1位の勝利数を記録している。捨てゲームしかり、若手選手の積極的な起用しかり、チーム状況に応じた、全権監督ならではのシーズン途中の選手の獲得や放出しかり……。言ってみれば、他の5球団の監督にはない、百戦錬磨の経験に裏づけられた“集中力の中の余裕”があったよ。ペナントレースで勝ち負けに集中するのは当然なんだけど、原監督だけは、その中で余裕を持ちながら、いろいろな判断を下していたんじゃないかな。

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