■「昔の餃子は羊肉だったんですよ」

蜂須賀 僕が好きなのは中国の東北地方の餃子。戦前の満州あたりですね。酸菜(サンツァイ)という白菜の古漬けを使います。これがすごいラフな漬物で、冬に収穫した白菜を壺に入れて塩をぶっかけて石で封をします。これは古くからある自然発酵に頼る作りかたで、強烈な匂いがするんですが、ダイレクトな味わいが好きです。

 古漬けのもっときついような感じなので、苦手な人は手を出さないほうがいいですよ(笑)。この酸菜に羊肉のミンチを合わせてあんにします。酸菜は保存食ですからそれを餃子にしたのはやむをえずなんでしょうが、そういう極限状態で作られた料理なのに栄養もたっぷりで、パンチ力もあって美味しい。クセになる味ですよ。満州は日本人も多く住んでいましたし、中国の餃子文化と一体化して生まれたところにも何か縁を感じました。

小野寺 第一部に出てくる餃子ですね。もともと日本で焼餃子が流行したとき、肉は羊肉でした。渋谷の「珉珉」もそうです。戦後の東京では、まだ豚肉や牛肉などはなかなか手に入らなかった。肉のクセもそうですが、保存状態もよくなかったので、それをなんとかおいしくするためにスパイスで工夫を凝らし、ニンニクやショウガなどを加え、焼餃子は進化していったのです。戦後、餃子は生きるための食べ物として生まれたんでしょう。

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