どうやら、その記憶の混濁は彼女が持つ特殊な能力に関連するらしい。やがて、松村の超能力で周囲の人々に異常が生じる様子や彼女の置かれた立場、超能力者の内面を探るようなカットが断片的に次々映し出され、謎めいた物語を予感させて本編は終了する。

 見る者に明確なストーリーを掴ませないまま完結してしまえるのも、個人PVという企画のもつ軽やかさといえるだろう。

 先々週の更新回(https://taishu.jp/articles/-/91416)でみた齋藤飛鳥個人PV「齋藤飛鳥 電波ジャック中」で登場する架空の映画の断片には、ザッピング感覚の小間切れの映像のうちに受け手の想像力を喚起する面白さがあった。

 松村の「PSI」もまた、物語を読み解く要素のかけらが示されながら、手の届かないもどかしさが特有の後味を残す。謎めいた作品であるだけに、スタッフのクレジットが流れ終えたラストシーン、「カット」の声がかかったのち彼女が静かに見せる笑みも、フィクションとも“素”の表情ともとれる曖昧さを含んでいる。

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