■「もう、やめようか?」とダメ出しも
渡辺 で、「志い朝の会」は、みんな忙しくなってから途絶えてしまったんですけど、十数年後に、もう1回やったんです。
立川 どこか大きな所だったよね?
渡辺 有楽町の朝日ホールですね。すでに立川流の真打に昇進してた志の輔さんはもちろん、三宅さんも相変わらずうまかった。実はこのとき、僕なりに心に誓ったことがあって。それは、「今回は枕をなくして、本編だけでも面白いということを証明してやる!」ということだったんです。
立川 おお、なるほど。
渡辺 だから、いきなり本編から入ったんですけど、会場はシーーーン!!
立川 あははは。
渡辺 それがもう、辛くて辛くて(笑)。ただ、古今亭志ん朝師匠の落語の完全コピーでやってるから、始まってしまったらアドリブでウケを狙うこともできないわけですよ。「俺は、やっぱり枕がないとダメなのか。なんで本編から入ってしまったんだろう……」って、心の中で泣きながら、そのまま落語を続けるしかなかったですね(笑)。
立川 でも、ナベちゃんは落研時代から、ずっと変わらないけど、そういうことをやってみようという勇気ある姿勢は、ホントにすごいと思うよ。
渡辺 そうですかね(笑)。
立川 毎年1回開催される『熱海五郎一座』(座長・三宅裕司)の公演を観てるときも、東京・新橋演舞場の舞台の上に立つナベちゃんは、落研で出会ったときのまんまなんだよね。だって、毎回毎回、ゴムをつけた手拭いを客席に向かって投げて戻すなんて、なかなかできないよ(笑)。「また、今年もやっちゃった」とか言って、お客さんをしっかりと笑わせてるし。
渡辺 あれですね(笑)。でも、3年目くらいのとき、三宅さんから「ナベ、もう、やめようか?」ってダメ出しされたこともあるんですけど(笑)。
立川 ははは。年に一度、あそこで先輩の三宅さんと後輩のナベちゃんを同時に観ることができるのは、俺にとってホントに楽しみでね。他の演劇だと、どういう演出で、どういう芝居をするんだろうといった気持ちがあるから、いい意味で緊張するんだけど、「熱海五郎一座」のときはもう、緩みっぱなし(笑)。だから、ホントの客になれる。あの頃の2人に出会えているという幸せ感に、俺はいつも客席で包まれてるよ。