■高座で寝てても面白い志ん生

――芸に対する3人の共通点。それは、どれだけキャリアを積んでも変わらない「目の前のお客さんを楽しませたい、笑わせたい」という一途な思いである。

立川 確かに、俺も1983年に立川談志の門を叩いた当初は、お客さんを楽しませるというよりも、落語はどういうものかを語ろうとする意識が強かった。師匠に落語を教わり、師匠のコピーをすることを最優先にしてた。だから、3年目を迎えた頃、師匠のご贔屓さんから「だいぶ師匠に似てきたね。よかったよ」って言われたときは、ホントにうれしかった。

渡辺 そうですよね。

立川 ただ、師匠と同じことをやっててもかなわないから、何か違うことをやっていかなきゃいけない。自分の個性を出していくことが求められるわけだけど、そうした中、いつしか落語を語るというよりも、お客さんのことを考えるようになった。つまり、「せっかく今日来てくれたんだから、楽しんでもらいたい、笑ってもらいたい」という意識に変わっていった。

渡辺 志の輔さんが独演会とかで2時間半しゃべり続けるパワーは、そこから来てるんですね。僕は、「もっとコンパクトにしてもいいんじゃないか?」って思ったりもするんですけど。

立川 お客さんに楽しんで帰ってもらう、そのためなら俺にとっては30分も2時間半も変わらないよ。だけど、熱海五郎一座のときの三宅さんもナベちゃんも同じでしょ。難しいテーマや物語性ではなく、娯楽性を重視してる東京喜劇の“軽演劇”。その極致に行こうとしてるわけだよね。もう2人は、舞台に出てくるだけで、お客さんから「面白い」と思われる人になろうとしてるんだよ。

渡辺 ああ、なるほど。

立川 それは落語でも同じこと。5代目古今亭志ん生師匠は、高座に出てきて、座布団の上で何もしゃべらず寝てても、お客さんは喜んだというし、師匠談志もまた、それに憧れていたんだよね。

渡辺 そうでしたか。

立川 でも今思えば、俺が落語を観て初めて、「ああ、この人はお客さんを楽しませようとしてるんだなあ」と感じたのは、落研時代のナベちゃんなんだよ。

渡辺 ホントですか〜!?

立川 うん。落語のルールどうこうよりも、そんな気持ちが、こちらに強く伝わってきたものだよ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5