■黙って舞台袖から見ていた談志
渡辺 当時、志の輔さんはいろいろと企画して、落語を披露してましたもんね。下北沢の駅前劇場とか、小さな劇場を借りたりして。
立川 そうそう。下北沢駅前劇場で毎週水曜日の夜10時から1時間、雨の日も風の日も、52週やったなあ。
渡辺 師匠は自由にやらせてくれたんですね?
立川 うん。それはすごかったよね。入門して5年もたたないうちに、歴史があって収容人数も多い銀座の博品館劇場で独演会を開いたときも、まったく怒らなかったもん。
渡辺 へえ〜。
立川 独演会っていったって、お客さんはすぐに集まらないよ。それで、俺は富山県出身だから、チケットに鱒寿司をつけた。チケット代3000円だったんだけど、鱒寿司は1000円相当(笑)。そしたら、田舎の人たちが応援してくれて、ワンカップの地酒と富山の薬も提供してくれて。そのうえ、富山県知事が上京して挨拶までしてくれた。
渡辺 すごいですねえ。
立川 あとで地元の新聞記者が書いた記事で知ったんだけど、実はね、知事が挨拶を終えてロビーに出てきたとき、師匠が頭を下げてくれたんだよ。
渡辺 えっ……?
立川 「うちの弟子のために、わざわざ、ありがとうございます」ってね。
渡辺(涙ぐみながら)カッコいいなあ……。
立川 師匠に独演会のことを伝えたときは、「博品館って銀座のか? ふ〜ん、まあ、うまいことやれや」としか言われなかったんだけど、ちゃんと忘れずに来てくれて。でも、自分がいることが俺に分かると、よけいな緊張をさせると思って、黙って舞台の袖から観ててくれて、しかも知事に挨拶までしてくれたんだよね。
渡辺 感動するなあ……。僕には、そういう良い話が全然ないもんなあ(笑)。
立川 あははは。
渡辺 よし、2021年の抱負が決まりました!
未来に語り継がれる良い話を残す行動をするようにします。志の輔さん、今後の僕を見ててください(笑)。
立川 いいね〜(笑)。
――今年も、明大落研の先輩 ・後輩2人の活躍に大注目です!
●わたなべ・まさゆき 1956年1月24日、千葉県いすみ市(現)生まれ。明治大学在学中にラサール石井、小宮孝泰と出会い、コントグループ『コント赤信号』を結成。1980年に『花王名人劇場』(フジテレビ系)でデビューし、人気を博す。その後、『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)など数多くの人気番組に出演。テレビ番組で活躍するかたわら、86年からは若手お笑い芸人の育成のための場「ラ・ママ新人コント大会」を主宰。現在、第一線で活躍する人気芸人を、若き日から見ている。
●たてかわ・しのすけ 1954年2月15日、富山県射水市(旧新湊市)生まれ。明治大学卒業後、劇団に所属し、その後、広告代理店に勤務する。83年に立川談志門下入門。90年に立川流真打ち昇進。95年からはNHKの大人気生活情報番組『ためしてガッテン』(現・『ガッテン!』)の司会を務め、現在はバラエティ番組、映画、ラジオなど落語以外でも幅広い活躍を続ける。 「龍角散」のCMにも出演中。2015年紫綬褒章受章。