しかし、生田絵梨花を主演に迎えた森がここで企図するのは、オーディエンスというモブキャラの典型像を強調してみせることではない。本作で試みているのは、楽曲パフォーマンス、舞台演劇、バラエティ番組といったいずれの分野においても、ことごとく主役級の存在感と力量を発揮する生田絵梨花という人物に、その対極にある「モブキャラ」という役割を充てるという実験である。
もちろん、容易に想像できるように、この作品ではあらかじめ生田がモブキャラに似つかわしくないキャラクターの強さを発揮してしまうことが期待されている。そしてその期待に応えるように、生田の演技はモブとは対照的な強烈さに満ちている。
ただし、ここで生じているのは、生田がナチュラルに発揮する存在感がモブという役割からはみ出してしまう、ということではない。生田は、彼女のもつキャラクターの強さをあえて大げさに演じてみせることで、この作品を成立させている。つまり、この個人PVでパロディ化されているのは、ある種の「生田絵梨花」自身についての典型像といえる。
普段の彼女以上に、「過剰に生田絵梨花的な存在感の強さを発揮する生田絵梨花」を演じた彼女がラストカットでみせる困惑めいた表情は、主演である生田自身とこの作品の主題との微妙な距離感をあらわしている。さまざまなジャンルを参照しながら個人PVを作ってきた森が本作でたどりついた参照元は、個人PVの主役たる乃木坂46メンバー自身であった。
乃木坂46「個人PVという実験場」
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