NHKマイルCと、ジャパンCダート。2001年に、芝とダートで2つのG1を手にした、記憶にも記録にも残る名馬、クロフネが亡くなりました。
僕が、このクロフネとコンビを組んだのはNHKマイルCから。オーナーの金子さんから、当時、滞在していたフランスに直接、電話をいただき、間髪入れずに「もちろんです。よろしくお願いします」と、お返事したのを覚えています。彼はストライドが大きく、乗っていて、スピード感を感じさせないタイプの馬でした。それだけに、最後の直線は冷や汗もの。僕でさえ、「本当に届くのか?」と不安に思ったくらいですから、馬券を握りしめたファンの方は、ハラハラ、ドキドキのしっぱなしだったと思います。
でも、この勝利はまだ、クロフネ伝説の序章に過ぎませんでした。ダート転向初戦となった武蔵野Sは、圧巻のひと言に尽きます。
「ダート適性があれば、圧勝するかもしれない」
クロフネの走りは、僕のそんな予想をはるかに上回っていました。3コーナーから、まくり気味に進出し、直線入り口で先頭に立つと、あとは楽勝。みるみる前に出て後続との差は広がり、最後は9馬身差の圧勝。なんだ、この強さは? あきれるほど、インパクトの強い勝ち方でした。見ていた方にも、それが伝わったのでしょう。スタンドから沸き上がった拍手と歓声は、とてもG3とは思えないほど大きなもので、僕のガッツポーズも、いつもより、いくらか大きくなっていたような気がします。
続くジャパンCダートでは、全米No.1という触れ込みで来日したリドパレスを子ども扱い。ディフェンディングチャンピオン、ウイングアローを7馬身もぶっちぎり、2戦連続のレコード勝ち。乗っていて、肌が粟立つほどの衝撃を覚えました。
レース後、屈腱炎を発症し、結局、このレースが彼にとってのラストランになってしまいましたが、もしも、です。もしも無事だったら、アメリカのG1を勝っていたかもしれません。それを思うと、やっぱり悔しいですね。
引退後は、北海道の社台スタリオンステーションで種牡馬として活躍。何度か僕も会いに行きましたが、放牧地がディープインパクトの隣で、顔を見せるたびに、うれしそうに僕の元に寄って来てくれました。
このクロフネに勝利の報告をするために、今週も全力騎乗。パートナーは、7日のきさらぎ賞、ヨーホーレイクの予定です。ホープフルS3着のヨーホーレイクは、牡馬クラシックに向けて大事なレースになります。
一年で最も寒い2月を迎えますが、寒さを吹っ飛ばすような熱いレースを、皆さんにお届けします。
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