奥田瑛二(撮影・弦巻勝)
奥田瑛二(撮影・弦巻勝)

「生きる」ということは「長い自殺」である――。つい最近まで、僕はそんなふうに思っていました。

 飲みたいだけ酒を飲み、健康のことなど省みず、やりたい放題にやる。そうやって、少しずつ“毒”を体にため込んで死に向かうという生き方に憧れを持っていたし、だからこそ“奥田瑛二”でいられるんだとも自負していました。

 ところが、ある作品に携わったことで、この考えがポーンと吹っ飛んでしまった。いやいや、生きなきゃいけない。それも、ちゃんと生きなくては。

 ある作品とは『痛くない死に方』という映画です。この中で僕は、がんなどの終末期をケアする長野という在宅医を演じました。後輩医師である主人公を演じているのは、娘(安藤サクラ)の夫でもある柄本佑です。

 出演が決まったとき、真っ先に思ったのは「シャキッとしなくちゃいけない」ということでした。もちろん、仕事はいつもやれる限りのことをやってきてはいるんですが、今作は「もっとできることはないか?」と自問自答してから臨みました。

 なにしろ、奥田家も柄本家も一筋縄じゃいかない“うるさ型”ばかり(笑)。しかも、佑とは多いときには週に3度は会う仲なんですよ。だから、バシッと準備して現場に立たないと、親族にも、世間にも笑われるぞ、という思いでしたね。

 そうやって撮影を終え、試写を観てみると、とにかく、登場人物の一人一人が素晴らしかった! 原作の長尾和宏医師をモデルにした役を自分が演じているという誇らしさ、そして彼に影響を受けていく主人公の姿に、非常に感動したんです。

 余韻は消えず、その日の酒はめちゃくちゃおいしかった。そして、書き込みだらけの台本を引っ張り出してきて、それを眺めながら、生きるということ、死ぬということについて、考えたんです。

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