オーディションを追った実録映像的な側面をもつ同MVが後半に入ると、あたかもこのドキュメンタリーを彩るBGMのように、本来主役であるはずの楽曲『君の名は希望』が鳴り始める。そしてややシームレスに映像の位相が移り変わり、メンバーたちの歌唱シーンへと繋がっていく。

 ワンカットで撮られたこの歌唱シーンのみ、画面はドキュメンタリー調の映像から明らかなフィクションとしての体裁に切り替わり、サポートの俳優たちは先ほどまでとは違った意味で「演じて」いる。

 すなわち、5人の俳優は「エチュードを行なう乃木坂46メンバーたちを見守り、励ます人々」らしい演技をしながら、歌唱シーンの「背景」として立ち回っている。エチュード場面から歌唱シーンへのシームレスな移り変わりはいわば、そのままドキュメンタリー性とフィクション性とのシームレスさに通じている。

 そして歌唱シーンも終盤に入ると、池松をはじめとする俳優陣はいつしか余韻もなく姿を消し、やがて楽曲が鳴り止むと再び演技審査を受ける乃木坂46メンバーを映したドキュメンタリー調の映像へと帰着していく。乃木坂46初期の代表曲『君の名は希望』のMVは、サポートの俳優たちと不思議な距離感を切り結びながら、グループのアイデンティティのひとつである演技志向をユニークに描き出す作品になった。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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