乃木坂46「個人PVという実験場」
第17回 ドキュメンタリーとアイドルの間 3/5
■メンバーの架空の前日譚を描くPV群
本連載で取り上げる作品の中にはしばしば、明確なフィクションドラマの体裁をとりつつも、演じている本人が「乃木坂46のメンバーである」ことを、モチーフの背後に忍ばせたものがある。それは個人PVというコンテンツを手がけるにあたって、ひとつのオーソドックスなアプローチといえるだろう。フィクション上の登場人物と、現実世界の演者自身とを重ね合わせてみせる仕方のうちには、言うまでもなく虚実の狭間が映し出される。
たとえば2020年6月16日更新分(https://taishu.jp/articles/-/80518)で取り上げた伊藤理々杏の個人PV「鏡の中の十三才」(20枚目シングル『シンクロニシティ』収録)で描かれたフィクションとは、「乃木坂46加入以前の伊藤理々杏」の架空の過去である。あくまで虚構のドラマとしての体裁を保ちながらも、とある出来事を境にして伊藤演じる主人公が一歩を踏み出す先に暗示されるのは、やがて彼女自身が乃木坂46に加入する未来だった。