一色隆司(撮影・弦巻勝)
一色隆司(撮影・弦巻勝)

 僕も演出を務めたNHK大河ドラマ麒麟がくる』が先日、最終回を迎えました。放送後の反応を見ると、視聴者の皆さんが物語を幅広く解釈し、かつ本質も捉えてくださっていて、ものすごくありがたいなと感じています。

 4月には『モダンボーイズ』という舞台も控えていますが、僕は映像や舞台など、さまざまなものの演出をしています。その違いを聞かれることも多いんですけど、自分の中では、どれも基本的には同じ。僕が目指しているのは、やっぱり感動――心が動くような作品を届けたいということです。

 感動といっても単純に涙を流すことだけじゃなくて、笑ったり、息苦しかったり、切なくなったり……いろいろあります。今生きている時代や社会の中で、何か心を動かしてもらえる作品を作る。そういう意味では、ドラマも舞台も体感ソフトもPVも、僕にとっては一緒なんです。

 ただ、表現方法や最終形はちょっとずつ違います。

 ドラマの場合は、台本ができて、ちょっとリハーサルをしたらすぐに撮影。“一瞬を捉える”という点で、ものすごく瞬発力と集中力が重要になります。画面に、自分たちが求めている“心”が映っているか。それに注力する仕事です。

 ところが舞台は、1つの空間で役者とお客さんが2時間なりを共有するもの。演出家は、役者が舞台に上がるまでが勝負になります。

 舞台は生き物なので、台本にどう書いてあろうが、その回その回で演技が変わります。だから、何十回とある公演でも、毎回少なくても「観に来てよかった」と思ってもらえるレベルになるよう、稽古で体に染み込ませていかなくてはなりません。

 舞台の稽古が始まるのは、だいたい本番の1か月くらい前。5年ほど前に初めて舞台演出をしたときは、「1か月も何をやるんだろう?」と思ったりしましたが……(笑)。クオリティを確保するためには、それくらい必要になるんですよね。

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