文藝春秋の3年異動人事は『文藝春秋』編集長というたったひとりのオールマイティプレイヤーを生み出すためのものの画像
柳澤健著作の『2016年の週刊文春』(文藝春秋)

柳澤健『2016年の週刊文春』著者インタビュー 1/7

 『2016年の週刊文春』は文藝春秋という会社と『週刊文春』という雑誌を軸に、日本の出版ジャーナリズムを描き切った大作だ。主人公は花田紀凱と新谷学、2人の『週刊文春』編集長。著者の柳澤健は、2人の間の世代の文藝春秋社員で、彼らとともに仕事をしてきた編集者だった。彼が見た2人の天才編集者の実像とは――。7回にわたって語ってもらった。

――『2016年の週刊文春』は、大正時代に菊池寛が創業した文藝春秋が、雑誌の全盛期である70年代、80年代を経て、2010年代に「文春砲」で名を馳せるまでの、約100年に及ぶ歴史を追いかけた大著ですが、文藝春秋という会社の特徴は、どんなところにあるのでしょうか。

柳澤:株式会社文藝春秋(文春)の社風は、ひとことで言えばアマチュアリズム。部活や文化祭のように、ワイワイと盛り上がりながら雑誌を作る。「みんなで面白いことやろうぜ」っていう会社です。

 いまはちょっと変わったかもしれないけど、長い間、文春の人事は、3年で異動というのが普通だった。最初の1年目は何もわからず、2年目はやりたい放題、3年目でちょっと飽きた頃に、また別の部署に異動になる(笑)。『週刊文春』で3年間スクープを追いかけた後、今度は『Number』でスポーツを取材する、なんてことが当たり前にある会社なんです。

 月刊『文藝春秋』編集長というたったひとりのオールマイティプレイヤーを生み出すために、幾多の編集者たちが死屍累々となる会社、という話を聞いたこともある。

 一方、ライバルの新潮社はプロフェッショナル。人事異動がほとんどないから、同じ部署に何十年も居続ける。作家の担当が20年以上変わらないなんてこともザラにあるから、当然、作家との付き合いは深く濃くなる。編集者と作家の関係性を重視するなら、その方がいいんだろうね。『週刊新潮』にずっといれば、当然取材力も上がるに決まっているし」

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