スクープを連発しても『週刊文春』がバカ売れしているわけではないのが難しいところの画像
柳澤健著作の『2016年の週刊文春』(文藝春秋)

柳澤健『2016年の週刊文春』著者インタビュー 7/7

 『2016年の週刊文春』は文藝春秋という会社と『週刊文春』という雑誌を軸に、日本の出版ジャーナリズムを描き切った大作だ。主人公は花田紀凱と新谷学、2人の『週刊文春』編集長。著者の柳澤健は、2人の間の世代の文藝春秋社員で、彼らとともに仕事をしてきた編集者だった。彼が見た2人の天才編集者の実像とは――。7回にわたって語ってもらった。

――花田さんがマルコポーロ事件で文藝春秋を追われる姿を見ていながら、それでもなお新谷さんが全身全霊を賭けて会社に尽くそうとするのは意外です。

柳澤:新谷は『マルコポーロ』にいたから、花田さんがどんな目に遭ったのかを間近で見てきた。その時は「ふざけんな」って思ったはず。でも、春画事件で休養を命じられたときに、社史に目を通したり菊池寛の文章を読んだりして、文藝春秋社が社会の中で果たしてきた役割や、長い歴史の中で今は自分が看板を背負う番なんだってことを自覚したんだと思う。何よりも新谷には、苦楽をともにしてきた後輩たちがいる。

 現在の『週刊文春』の躍進は、単に文春砲がネットで騒がれたから、という話ではない。文藝春秋100年の歴史の流れの中で見ないと正確な像を結べないんです。だからこそ時代や歴史を書いてきた私のところに、この本を作る話が来たんでしょう。

――本書が刊行された後も『週刊文春』はスクープを連発し、国内のジャーナリズムを独力で牽引する週刊誌となっています。今の『週刊文春』を柳澤さんはどのように見ているのでしょうか。

柳澤:ちょっと凄すぎるよね(笑)。メディアの中で『週刊文春』のひとり勝ちとかそういう次元ではなく、ひとりだけ別の次元、別のジャンルって感じ。ここまで『週刊文春』のスクープ力が圧倒的だと、「新聞やテレビは何をやってるの?」「取材してるっていうけど何の取材をしてるの?」と、当然みんな思うよね。でも、メディアって本来こういうものだったはずなんですけどね。

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