アイドルが使えるシンプルな魔法、桐原ユリさんの配信が開放してくれた「しがらみ」。【連載第9回】の画像
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朗読詩人 成宮アイコ エッセイ
「愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル」

 朗読詩人の彼女が、大好きなアイドルのことと、なかなか好きになれない自分と生活のことを綴る連載。

■「アイドルに憧れてライブを始める」というbio

 桐原ユリさんのことを知りたくなったのは、Twitterのboiに書いてある「アイドルに憧れてライブを始める」に強く共感したからでした。

https://twitter.com/yuirintaka?lang=ja

 買い物に行けば買い物に来たことすら忘れてただ家から出てある程度歩いたら家に帰り、「買い物に行ったんだった!」と思うような、自分で自分の自尊心をガリガリに削りまくってしまう系ADHDのわたしは、毎日なにかを失敗する自分のためにはなにも頑張ることができないので、自分が夢中になれるものや人に心を動かしてもらうことでなんとか生活をする気力を保っています。

 好きな作家さんの新刊発売日や、好きなプロレス団体の興行日や、好きなアイドルさんのMVが公開される日や、次回のライブ予約完了画面が生きる活力です。

 その夜、わたしはただ呆然と部屋の壁を見つめていました。仕事が終わる時間に「シャンプーを買う」というアラームをかけていたのに、消した瞬間にシャンプーのことなんて忘れてradikoを聞きながらのこのこと家に帰ってきてしまったからです。さて、お風呂に入るかと思って服を脱いだところで気がつきました。シャンプーがない。

 この日、買い忘れたのは3日目で、つまり今日で3回目のアラームだったので、いい加減シャンプーのボトルに水をいれて無理やり振っても泡立たないはず。ドラッグストアはもう閉店の時間なので、コンビニに売っている特別お気に入りでもなんでもないシャンプーを買わなくてはいけない。

 わたしの世界に存在していたのは、今日もまたうまくいかなかったわたしの暮らしと、静まり返った自分の部屋と、また服を着て夜中にシャンプーを買いに行かなくてはいけないことと、他の誰かもこんな風に忘れものばかりの日を過ごしているのだろうかという疑問でした。

 頭をよぎるのは、なにか得体が知れないけれど大きくて漠然とした「わたし以外はみんな立派な社会」でした。漠然とした立派な社会vs自分。なにしろ全体像が見えないので戦い方もわかりません。

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