柄本時生(撮影・弦巻勝)
柄本時生(撮影・弦巻勝)

 僕が役者になろうと決心したのは、大学受験に失敗したとき。“あぁ、これで履歴書に「学生」とは書けないな”と、思ったのがきっかけでした。14歳の頃から役者の仕事をやってはいましたが、それまで僕の本業はあくまで「学生」。でもこれで、もう社会人になるしかないんだと、俳優を職業にすることを、改めて意識しました。これが僕にとってのターニングポイントでしたね。

 俳優になるかどうか、両親に相談したことは特にありません。柄本家は基本、“自分で考えろ”という家風なんです。親父(俳優の柄本明)からは、よっぽどのことがない限り、連絡は来ません。来るときは、たいてい怒っているとき(笑)。作品を観て、僕がセリフを言ってる様子が気に食わなかったら、キレられます。でも、私生活で怒られたことは一度もないですね。

「俳優」って、皆さんに芝居を見ていただいて、“この人はすごく考えて演じている”と思ってもらえる職業です。でも僕は、役者一家に育ったこともあって、役者のふだんの姿も知っている。他の職業の方と同じように“早く終わらせて帰りたいな”って、思うときだってある。意外に、普通なんですよ。

 だから、昔は“俳優なんて大した人間じゃない”という意識を強く持っていました。どこか否定してやろうとすら思っていたほどで。でも、今ではその意識もちょっと変わりましたね。根本的な考え方は一緒ですけど、俳優がいることで社会のどこかが回っている。俳優も社会の一員なんだと考えるようになりました。

 僕が出演している公開中の映画『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』では、田口トモロヲさん、松重豊さん、光石研さん、遠藤憲一さんなど、そうそうたる先輩方と共演させていただいています。ドラマや映画では、テストと本番で、セリフ回しや演技がよく変わったりするものなんですが、先輩方のお芝居を見ていると、皆さんずっと、絶対に演技が変わらない。僕は同じことをやり続けると飽きちゃって、途中で変えてしまうタイプでしたから、何かとても申し訳ない気持ちになりました。

 実は、一つのことをずっとやり続けるのは、とても難しい。先輩たちを傍らで見て、改めて学びましたね。

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