藤井隆(撮影・弦巻勝)
藤井隆(撮影・弦巻勝)

 僕は子どもの頃、10歳上の姉と7歳上の兄、そして9歳上の親戚のお兄ちゃんにかわいがられて育ったせいか、年上の人についていくと安心できるんです。年上の人から「これをやって」と言われたら、「ハイッ」と応える。それで「いいね!」と褒めてもらえると喜びを感じる。特に、若いときは自発的ではなくて、“教えてくれる人”を頼っていましたね。

 僕は、会社員をしていた20歳のとき、吉本新喜劇の劇団員になりました。最初はサークル感覚で、土日にお芝居や歌、ダンスなどのレッスンを受けていたんですが、そこで出会ったマネージャーが、すごく積極的にいろんなことを提案してくれる人で。「このオーディションを受けてきなさい」と言われて、「ハイッ」と行ってみたら合格して、「いいね!」と褒めてくれる。そして「会社を辞めて新喜劇一本にしなさい」「東京で仕事をしてみなさい」と導いてくれたんです。今の僕があるのは、そのマネージャーさんのおかげです。

 その後、東京で活動するようになって、さまざまなテレビ番組に出していただくようになりました。2000年には歌手デビューもできましたが、このとき本当にありがたかったのは、レコード会社の方々が一人の新人歌手として扱ってくれたこと。有線放送やレコード店にあいさつ回りをしたり、自筆でポップを描いたり、CDを買ってくれた方にコンサートという形で会いに行ったり……。作ること、届けることの基本を、イチから学ぶことができましたね。

 そんなふうに、誰かに敷いてもらった道を「ハイッ」と歩けたからこそ、僕は前に進めました。

 ただ、僕は芸人として、エピソードを面白おかしく話せるわけじゃないし、漫才師の方のように相方とネタを作って芸を磨いていくわけでもない。目の前の仕事をとにかく走り切ろうとしていただけで、自分で“こういうことがしたい”という気持ちがなかった。だから、前に進めて結果が出た一方、いつまでもそれじゃダメだということも分かっていました。

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