津田寛治(撮影・弦巻勝)
津田寛治(撮影・弦巻勝)

 子どもの頃からとにかく映画が好きで、大人になったら映画の仕事をやりたいと漠然と思っていました。

 映画に携わる仕事はたくさんあるけれど、花形はやっぱり監督です。ところが、親戚の叔父さんから「監督っていうのは頭が良くないとなれない。学校の成績がむちゃくちゃ悪いおまえがなれるわけがない」と言われてしまった。「だったら俳優になりたい」と、あさはかに考えたのが小学校の高学年くらいのときでした。

 その後、地元の高校に進学しましたが、いろいろあって退学することになり、そのときに上京して本気で俳優を目指そうと決心しました。

 それを母親に伝えた数日後、またもや叔父さんが登場して「母子家庭なのに、お母さんを置いて行くなんて、こんな親不孝はない。そもそも俳優で成功するなんてめったにないことだ」と、説教されたんです。

 でも、このときの僕は考えを翻しませんでした。なぜなら、学歴もなく、素行にも問題がある自分が、このまま地元にいたところで、たいした大人にはなれない。俳優になれる可能性が低いことなんて、重々承知しています。でも挑戦して、自分自身で「無理だった」と確かめないまま諦めたら、一生後悔する――そう思ったんです。

 そして56歳の今、幸いなことに俳優を続けられています。いわゆるバイプレイヤーとして、数多くの作品に出演させていただいてきましたが、一つ一つが“奇跡”だと感じていますね。

 まず、たくさんいる俳優の中で、僕にその役柄のオファーが来ることが“奇跡”です。そして現場では、俳優だけじゃなく、カメラ、音声、衣装、すべてが集結します。そして、そのときにカメラの前で起きたことだけが、映し取られる。これを“奇跡”と呼ばずして何と
呼ぶでしょう! そんな“奇跡”を積み重ねたものが、映画であり、ドラマだと思って生きてきました。

 ただ、少し前には、俳優として行き詰まりを感じていた時期がありました。そんなとき、フランスの新進気鋭の若手監督が撮る映画に出演することになったんです。

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