三池崇史(撮影・弦巻勝)
三池崇史(撮影・弦巻勝)

 若い頃はフリーの助監督として、映画の現場で働いていました。さまざまなタイプの監督のもとでスケジュール管理をしたり、ときには金づちを持って美術部の手伝いをしたり……。映画に関わるありとあらゆる仕事をしていたわけですが、ちょうどその頃、「Vシネマ」というものが生まれました。

 映画でもテレビでもないこの分野は、ずっと監督として生きてきた人たちにとって「予算は少ないし、そんなものはやれないよ」という存在。引き受けたとしてもプライドがあるから、映画のやり方を貫こうとする。

 一方、Vシネマを制作する側の多くは、若い頃に映画をやりたかったけど夢かなわず、家業を継ぎ、中年になって経済的に余裕ができてきたから映画を作りたいという人たち。だから、彼らからすると「こだわりの強い映画監督を口説いて作っても、それほど面白くない」となる。

 あるとき、酒を飲みながら彼らの愚痴を聞いていると、「いっそおまえが撮ったほうが面白そうだよね」となった。それで監督したのが『突風! ミニパト隊』という作品。それが30歳くらいのときで、以来、Vシネマ、劇場用映画、テレビドラマなど、数多くの作品の監督をやってきました。

 作品ができあがるプロセスは監督によって違いがあると思いますが、僕の場合は数をやってきた分、作品を“夢”ではなく、“リアル”で考えてしまう傾向があります。分かりやすく言うと、与えられた予算と時間の中で、このスタッフとキャストでどう作るか、という考え方をしてしまう。

 今の日本の映画において、監督や脚本家は「調整役」なんですね。プロデューサー、配給、場合によっては俳優サイドが、作品にいろんな意見を言ってくる。それらをうまいことまとめ上げて、作らなくてはならないわけです。

 ところが、宮藤官九郎という人物が書いた脚本だと、この考え方がリセットされるんですよ。いつもだったら「本当はこういう絵を撮りたいけど、予算や技術を考えると無理だよね」と思うところが、「どうやったらやれるかな」となる。

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