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「週刊プロレス編集長VS棚橋弘至」を読む。


女子プロレス「スターダム」の世IV虎(よしこ)と安川惡斗(あくと)の凄惨試合の伝え方について、今週号の「週刊プロレス」で佐藤正行編集長と棚橋弘至選手の対談が載っていた。

きっかけは安川惡斗の流血した顔を表紙にしたこと(3月11日号)について、棚橋がツイッターで批判したことだ。

「今週の週刊プロレスの表紙 あれはない。表紙になった選手も本意じゃないだろうし。いいこと1つもない。」

「週刊プロレスはコンビニにも駅にも置かれる“プロレス”と“世間”をつなぐ入口のひとつ。それを自ら塞ぐ愚行。」

私は1月31日のこのコラムで「棚橋弘至、アントニオ猪木と表裏一体説 https://taishu.jp/13661.php」を唱えた。新日本プロレスの歴史を「喜怒哀楽」で例えるなら、猪木は「怒」と「哀」で勝負した。残りの「喜」と「楽」を棚橋が現在やっているのだと。「喜」「楽」とは現在の観客のニーズのこと。会場に足を運んでよかったと思わせて家路に着かせるストロングスタイル。そう考えると、棚橋があの表紙に異議を唱えるのは当然だろう。(ちなみに私はあの表紙については写真より「リングは私怨をぶつける場ではない!」というコピーについて違和感を持った。先週ここで書いた。)

今回興味深かったのは佐藤編集長の言葉。「5年前に僕が編集長になるにあたって、流血写真はNGであると、そういう社内的な縛りが漠然とあった」という前提(コンプライアンス)を述べ、

「前週の試合の中では一番のインパクト、事件ですので、これを表紙にしなかったら僕は週刊プロレスの編集長としての資格はない。」と答えている。
かつて、週プロが一般週刊誌より売れた時代があった。ターザン山本編集長時代(80年代末~90年代中盤)のことだ。賛否両論の主張、扇動的なコピー、徹底したスキャンダリズムの実践は中毒性を生んだ。そのターザンの下で学んだ佐藤編集長は「僕の中の雑誌記者としての遺伝子がそうさせたことも否定しません」と言っている。

私の目を引いたのは次の言葉。「20~30年前にスキャンダルが当たり前だったのが、いまはなぜこんなにも清廉なプロレス界になったのか。時代が違うのでしょうが・・」

戸惑いを正直に述べているのだ。時代の変化に対して揺れている。意外だった。週プロは今の時代に合わせてドライに対応していると思っていたからだ。

自分の考えを言うと、プロレスにはいろんな意見や見方があっていい。私などはリテラシーなどという小難しい言葉を知る以前から、プロレスマスコミのおかげで情報の読み比べや受け取り方について学ぶことができたと真剣に感謝する者である。

プロレスをみんなで盛り上げていこうという現在の動きは嬉しい。しかし、行間や想像力や下世話さを含めた「プロレスを考えることは悦びである」的な、プロレス者のめんどくさい行為が淘汰されたら寂しい。

業界側の人間が、せっかくの復興に水を差すことはするなと言うのはわかる。ネガティブなことは言うなという気持ちもわかる。でも受け手のファンもそういうムード一色になったら危険だ。だってそんな無菌室のような気味の悪い世界に「世間」は寄ってこないからだ。近寄りがたい。

「いまはなぜこんなにも清廉なプロレス界になったのか。」プロレスマスコミのまん真ん中にいる週プロ編集長の言葉だから興味深かった。

揺れればいいと思う。「古い考え」「今はそんな時代じゃない」と言われて迷うこともあってもいいと思う。その様子をたまには見せてほしい。葛藤や煩悶を垣間見ることができるのはプロレスファンの特権であるから。


プチ鹿島
PROFILE
1970年5月23日生まれ。お笑い芸人。オフィス北野所属。時事ネタを得意とする芸風で、新聞、雑誌などにコラムを多数寄稿。ラジオ番組「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)、「荒川強啓のデイキャッチ」(TBSラジオ)、「キックス」(YBS山梨放送)ほか、TVや映画など多方面で活躍中。





「教養としてのプロレス」(プチ鹿島/双葉社)
2014年8月7日発売 新書判304ページ





今もっとも注目すべき文系芸人・プチ鹿島氏による初の新書が双葉社より発売! 「どの週刊誌よりも売れていた」という90年代黄金期の週刊プロレスや、伝説の編集者・井上義啓氏の週刊ファイトなどの“活字プロレス”を存分に浴びた著者による、“プロレス脳”を開花させるための超実践的思想書。 「半信半疑力を鍛える」「グレーゾーンを許容する」「差別に自覚的になる」等々、著者が30年以上に及ぶプロレス観戦から学びとった人生を歩むための“教養”を、余すところなく披瀝。すべての自己啓発本やビジネス書は、本書を前に、マットに沈むこと必死!

ブログ:http://orenobaka.com/
ツイッター:@pkashima

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