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「ポリスマン」安生洋二の引退。

ボートレース戸田
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GⅢ 戸田マスターズリーグ第10戦・週刊大衆杯


安生洋二が3月19日の後楽園ホール大会で引退した。

不思議な選手だった。その魅力はギャップの多さではなかったか。

まず最初は「帰国子女」というギャップ。私は「安生は英語がしゃべれるらしい」という理由だけでよくわからない幻想が高まった。

安生は若手の頃から脇役のような顔をしていたが、「道場での腕前は一級品らしい」という噂が次第にささやかれる。これも安生のギャップ。

90年代前半、船木誠勝が専門誌のインタビューで「モーリス・スミス(当時打撃系で最強と言われた)にキックで対抗できるかもしれない日本人プロレスラー」を名前を出さずに語った。読者は「安生のことを言っているのではないか?」と想像した。

「ポリスマン」という言葉が語られる際も、安生の名前はチラホラ出てくる。初来日した外国人レスラーがどの程度の実力なのか確かめるために対戦するというポリスマン。その土地(団体)の秩序を守るために存在するレスラーを指す隠語。

プロレスファンは隠語(内部事情)が大好き。ポリスマンが本当に存在するかどうかは実は重要ではない。「ああ、あのレスラーならそうかもな」と想像するのが好きなのだ。安生洋二には不思議とそれがあった。

そして時代は、安生の影の実力者ぶりをオモテに出さざるを得ない状況に。
当時、安生が所属するUWFインターのエース高田延彦は「最強」を謳っていたのだが、そのせいで他団体とやたらトラブりはじめる。それがまた刺激的でお客を呼ぶ。元祖・炎上商法といってよい。そんなとき他団体への挑発の矢面に立たされるのが常に安生だった。今から考えると、ポリスマンを前面に押し出すしかないほどUインターは自転車操業に陥っていたことになる。

そのうちアメリカではグレーシー一族の出現が伝えられた。しばらくして来日したヒクソン・グレイシーは格闘技大会で圧倒的な強さを見せる。

ファンの目は当然「どうするUWFインター?」となる。あれだけ最強を自称していたからだ。

そんなムードに包まれていた時、アメリカへ渡りヒクソン・グレイシーに道場破りを仕掛けたのが安生だった。

ポリスマンはヒットマンになった。そして撃沈。

UWFインターの事実上の終わりだった。約1年後の高田の武藤戦敗北はともかく、安生のあの負けがUWFインターを終わらせた。勿論ここで言いたいのは安生の責任ではなく、その存在の大きさである。

UWFインターの最終章、新日本プロレスとの対抗戦でもやはり安生が最初に乗り込んだ。長州力に「キレてないですよ」の名言を吐かせた。つくづく、炎上商法で重宝された男。

その後の安生はプロレスで自由に活躍した。かつての重い責任を「忘れてしまいたい」かのように。

プロレスのリングで奔放に振る舞う絶頂期の安生を見て、楽しそうに見えた人もいるかもしれない。しかし私はどこか、酔うことだけが目的で酔っぱらっている人を見ているような気がしてならなかった。まるで「羽目を外す警察官」のように。

ついそんなことを妄想させてしまう安生洋二。やはり不思議なプロレスラーだった。

いろんなギャップをありがとう。


プチ鹿島
PROFILE
1970年5月23日生まれ。お笑い芸人。オフィス北野所属。時事ネタを得意とする芸風で、新聞、雑誌などにコラムを多数寄稿。ラジオ番組「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)、「荒川強啓のデイキャッチ」(TBSラジオ)、「キックス」(YBS山梨放送)ほか、TVや映画など多方面で活躍中。





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2014年8月7日発売 新書判304ページ





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ブログ:http://orenobaka.com/
ツイッター:@pkashima

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