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スゴ腕・万引きGメンが見た「現代ニッポン」の貧困現実

[週刊大衆04月20日号]

老人や子連れの母親、オタク少年たち。決して悪人には見えない彼ら彼女らが突如、獲物を狙うケモノに豹変する!

「万引きをする瞬間、人間は顔が豹変します。人の良さそうなおじいちゃんや思わず見とれてしまうような美人が突然、腹を空かせて獲物を狙う獣のような鋭い目に変わる。今でもそれを目にすると、見たくないものを見たような、嫌な気持ちになりますね」
こう語るのは、通称「万引きGメン」と呼ばれる私服警備員を務める伊東ゆう氏。伊東氏は驚異的な捕捉件数を誇る「スゴ腕Gメン」として知られる。

「おもしろいもので、悪いことをしようとしている人間は挙動が不自然になります。楽しい買い物のはずが、怖い顔で全身から妙な邪気を放って入店する。売り場でもキョロキョロと目線をあちこちに飛ばしたり、おかしな動作、たとえば盛んに後ろを振り返ったりします。"店内ではぐれた奥さんを探す夫"と似ている動きです。実際、新米Gメンだと、こうした人の動きに惑わされますね」

万引きをする者は、雰囲気や服装にいくつか特徴があるという。
「見た目で言えば、だらしない感じ。大きめのダウンジャケットやコートなど、だらっとした服を着て、その中に商品を隠す。男性の場合、服の中に魚釣り用のポケットがたくさん付いたベストなんかを着込み、そこに入れることもあります。一番はバッグです。肩にかけて、スッと物を入れられるトートバッグやエコバッグは要注意です。女性の万引き犯はほぼ確実にバッグに物を入れます。不思議と男性は、自分の身に付けて盗むことが多いですね」

犯人が盗む物にも、不思議な共通点があるという。
「皆さんは"お金がないから万引きする"と思うでしょう? 生活困窮者による犯行が多い地域は確かにあります。ただ、それ以上に"ゆがんだ節約意識"による犯行も多いんです。特に都市部では、買うお金はあるのに、商品を盗むケースが非常に多い。そうした万引き犯は、普段買うには少し高いもの、中トロの刺身、黒毛和牛、高級いちごなんかをサッとバッグに入れます。これは"万引きあるある"ですが、常習者は不思議なことに同じ商品を必ず複数個盗みます。人が何か物を盗ろうとする瞬間、小動物を狩る猛禽類のように手をガバッと開いて商品をいくつか掴む。"リスクを冒すならば、一つでも多く取ってやろう"という、浅ましさを感じる瞬間です」
ナイフで首を切りつけられた

これまで数多の現場を経験してきた伊東氏。新米Gメンの犯人捕捉率は2~3割程度だが、伊東氏の場合、8割にのぼるという。
「万引きGメンは、基本的に警備会社からスーパーなどに派遣される私服警備員という立場です。現場では、何はともあれ、『現認』を取らないことには始まりません。現認とは警察用語で、商品を手に取り、未精算のまま店外に出るという犯罪行為の一部始終を、自らの目で確認することを指します。この現認の構成要素が一部でも欠けると、相手に声をかけて捕捉することはできません」

万引きの手口は、実に多種多様。盗った物をそのままポケットに隠したり、買い物かごに入れた商品を店内の死角で、持参したバッグの中に移し替えたりするやり口以外にも、一度精算を済ませた品が入ったビニール袋に新たな商品を入れる=「出戻り」、手にした買い物かごごと店外に出る=「かご抜け」、服や靴を自分が身に着けている物と、その場で交換する=「はき替え」などなど。

ここで、伊東氏に万引き犯を捕捉するまでの実例を挙げてもらった。

●場所/某県の大手スーパー地下1階食品売り場
●犯人/狼のような鋭い目つきをした50歳くらいの主婦。通称「狼女」
●状況/大量の商品をカートに載せて、レジを通さずにサッカー台(商品を詰める台)に行き、持参したエコバッグに詰め込み始めた

「未精算の商品が入ったエコバッグをカートに載せた"狼女"は、周囲を警戒しながら、1階出口につながるエスカレーターにカートごと乗ってしまいました。追尾中に一瞬、見失いましたが、店外で自転車の荷台に盗んだ商品を載せている姿を発見。声をかけたら、狼狽しながらも"お金は払いました"とシラを切る。ただ、私の目を真っすぐ見られず、レシートもなくて黙ったままなので、事務所に連れていきました」

この"狼女"が盗んだ商品は、肉、魚介類、野菜、味噌、さらには10キロ袋のササニシキまで計25点、しめて1万1021円分。常習犯のご多分に漏れず、アスパラや鮭の切り身などを2個、3個と複数盗む強欲ぶりだった。

「彼女は"警察にだけは……"と、とにかく通報されることを極度に恐れていました。健康保険証を見ると、56歳の主婦で旦那さんと子ども2人の4人暮らし。警察を極端に嫌がる犯人は大抵マエ(前科)があります。後でわかったんですが、彼女も前科6犯で、2週間前にも近所のスーパーで捕捉されたばかりでした。結局、その悪質さから、店のマネージャーが警察に通報したんですが……」

通報されたことを知らなかった"狼女"、突然、現れた警察官を前に動転。ついにはバッグからハサミを取り出し、自ら刃先をノドに付きつけて「あたし、死にます!」と叫ぶ大立ち回りを演じた末に逮捕された。

「万引き犯は、基本的にみんな嘘つきなんです。常習犯なのに"今日が初めてだったんです!"と土下座して謝るのは序の口。事務所に連れてきた途端、"胸が痛い、心臓が……!"と倒れる老人や、ヨダレを垂らしながら、おしっこや"大"まで漏らす犯人もいました。もう嫌になりますよ。また、補捉する際に抵抗する人間もいます。私も小さなナイフを持った男に首を切りつけられ、血が噴き出したことがあります。あと数センチずれていたら、動脈が切れて死んでいました。襲われた場合、私は空手のローキックを相手の太ももに打ちつけ、動けなくするようにしています」

スゴ腕Gメンとして10年以上にわたり活躍する伊東氏だが、精神的な苦痛は決して消えないという。
「結局、いつも人を疑って見ないといけない。この仕事を真面目にやろうとする人ほど、苦しくなって酒に溺れたり、心を病んでしまったりする。悲しいことですが、実際、私も親友だったGメン仲間を自殺で失っています。そもそもこの仕事は待遇が良くありません。Gメンの日給は良くて1万円程度、管理職クラスでも年収はせいぜい400万円程度です。体を張る仕事内容に決して見合った収入は出ません。Gメンは7、8割が女性ですから、不良や外国人窃盗団のような危ない相手は見て見ぬふりで、抵抗されない老人ばかりを捕まえがちです。最近、高齢者の万引きが増えたと言われますが、実は、それよりベトナム人や中国人の窃盗グループが急増している。高価な家電をごっそり持っていくなど、ひどいものですよ」 心の飢えを満たすために盗む

このように時代を映す鏡でもある万引きの現場では、昨今、喧伝される「景気回復」の恩恵に授かれない、庶民の姿が多く見られるという。
「何を盗るかで、生活のレベルが見えます。最近感じるのは他人への嫉妬、つまり自分の生活が落ちても周囲と同じじゃなきゃイヤだ、という歪んだ平等感による万引きの増加です。ちょっと高級なお菓子やスマホグッズなどを盗むんですが、それを手に入れて"自分は周りと同じレベルだ"と、安心したいんでしょうね。あと、子どもたちが心配ですよ。今の万引き少年はわかりやすい不良は少なくて、暗いオタクっぽい感じの子が多い。先日も10代の4人組を捕まえましたが、全員、親が離婚していた。もちろん、片親でもちゃんとしつけをしている親御さんもいますが、彼らは自分たちの絆を深めるために万引きをやっていた。共犯関係になって仲間意識を強めたり、何個も盗ってきて友達に配ったりするんです」

"心の飢え"を満たすための万引き現代ニッポンの病理が、そこにはある。
「最近、明らかに精神的な病を抱えている万引き犯が増えました。心の中の貧しさが万引きを引き起こしている。先日、それぞれ別の現場で2人の中年男性を捕まえたんですが、思い詰めた感じで何かおかしかった。この2人、荷物の中に揃って出刃包丁を持っていました。聞けば"無差別に人を殺して刑務所に行こうと思った"と言う。こんなヤツが街を歩いていると思うと、ゾッとしますよ」

万引きの年間被害額は1兆円を超えるとも言われる現在。そこからは、日本社会が抱える「貧困の現実」が透けて見える。

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